ディーノは自室のベッドの上で緊張に体を強張らせていた。
いつもの仕事エリアにある個室ではなく、プライベートな空間にある方の自室で。

ここに居る時は、余程のことがない限り周りの干渉を受けることがない。
ファミリーのこれからに関るようなことでもない限り邪魔は入らない。

そんな場所に初めて雲雀を招きいれた。

彼は今、シャワールームに居る。
それが意味することは唯一つ。

想像するだけで、興奮するより緊張して嫌な汗が出てきた。

自分でも何をやっているんだろうと思う。
けれど、体が勝手にそんな反応を見せる。
知らず、拳を握り締めていたのに苦々しい気持ちが広がった。

想い伝えることが出来るようになるまで六年。
そこから受け入れてもらえるようになるまで四年。

我慢しすぎてその状態に慣れてしまい、いざ開放されてどうしたらいいのかわからなくなっているのが素直なところだった。

そもそも、髪を切っていいとは言われたが、結局好きだとは言われてない。
自分の想いが確かなものだと信じてくれたのは間違いないが、それで両想いであるのか。

常々、自分に対する気持ちは綱吉に対するものとは違うとはっきり言われていた。
彼に対する気持ちが恋愛であったのなら、自分に対しては何なのだろう。

好意を寄せてくれているのだけは間違いがない。
髪を切ってからこっち触れたり抱き寄せたりしても特別抵抗されたことはない。
もちろん、場面を選ばなければトンファーが飛んできたが。
数度、口付けることも出来ている。
その時も嫌がっていた様子は無かった。

だからこそ一大決心をしてここへ連れて来たわけであるのだが。

「三十路過ぎて、この場面で緊張するなんて思わなかった」

なんだかちょっと哀しくなってきて両手で顔を覆う。
その際、うっかり心の声が外に出てしまったのに返事が返ってくるなんて誰が予想していただろう。

「……あなた、そこまでへなちょこだったの……」
「きょ、恭弥っ!!」

心底呆れたのを隠そうともしない声に、大げさなほどに振り返る。
そこにはバスローブ一枚の艶やかな姿を称えた愛しい人が佇んでいた。

「あ、いや、今のはだな」

格好悪い。
泣きたいくらい格好悪い。

もはや取り繕うことすら出来ずにおたおたしていると、緩やかな動きで雲雀がベッドの上に乗り上げてきた。

「まったく。初めての子供じゃあるまいし。……それとも、初めてがいい?」
「え……」

妖艶に笑んだ雲雀の手がディーノの頬に伸びる。
いつの間にやら上に覆いかぶさるような体勢になっていた彼にふとある事実を思い出した。

「ちょちょちょちょちょっと待てっ! それは、勘弁してくれ」

雲雀のことは誰よりも愛しい。
彼以外と触れ合うなんてもう考えられない。

だがしかし、それはダメだ。

失念していたが、雲雀と綱吉の関係を考えると、雲雀は……元々「そちら」側だ。
だからといってそれを許容するわけにはいかない。

「どうして? きっと僕のが慣れてる」
「いや、うん、まあ、そうかもしれないけどっ!」

雲雀に組み敷かれる自分の姿なんて想像すらできない。

先ほどとは違う意味で泣きそうになりながらも、ディーノは雲雀の腕を掴みくるりと体勢を入れ替えた。

「オレは、こっちがいい」

あらゆる意味で余裕なんてありはしない。
いっぱいいっぱいになりながら訴えたディーノに雲雀は突然くすくすと笑い出した。

「恭弥ぁ〜?」
「冗談だよ」

楽しそうに細められた目。
しかし、それはすぐに真剣なものへと変わった。

「悪いけど、あなたにそういう気持ちはわかないんだ」
「え、それって……」

雲雀の台詞に一気に不安が襲ってきて、ディーノは表情を曇らせる。
それに雲雀は僅かに瞳を優しげなものに変えるとディーノの髪を梳いた。

「最後まで聞いて。……あなたにはちゃんと言ってあったよね」

綱吉に対する想いとは違うということを。

雲雀の言葉にディーノは頷く。
それに満足したような顔を見せると雲雀は続けた。

「彼に対する感情はおそらく今のあなたに準ずるものだった。立場を逆転させようなんて思いもしなかったし、彼が望んでも断ったんじゃないかな」

どこまでも雲雀は「愛する」側だった。

「でも、今は逆なんだ」

ディーノの髪を梳いていた手が滑り落ちて首もとのタトゥーを撫でる。

「あなたを抱きたいとは思わない。……けど、あなたになら」

抱かれてもいいと思うんだ。

「きょう……や……」

囁かれた言葉に、首元から襲ってくる刺激と相まってディーノの背筋にぞくりとしたものが這い上がった。
瞬時にして飛びそうになる理性を保つのに唾を飲み込むと、腕の中の雲雀がくすりと笑う。

「彼に対して抱いていた感情とはどこまでも交わらない。……けど、これだって立派な恋愛感情だと思うのは間違ってるのかな?」
「間違ってないさ」

綱吉は愛したかった。
ディーノには愛されたかった。

ただ、それだけの話。
愛にだっていろんな形がある。
いつだって同じ形で好きになるとは限らない。

「てか、ホントそれでよかったよ。お互いの気持ちが一致してる」

綱吉と一緒じゃなくてむしろよかった。
ここまできてそんなことで争いたくない。

「なら、もう大丈夫だね」

ディーノの肌に触れることを止めることがなかった雲雀が柔らかな笑みを見せてくれるのに。
彼が自分の迷いや緊張をほぐしてくれたのがわかって愛しさがこみ上げる。

「恭弥、愛してるよ」
「うん」

自然と合わさった唇はお互い既に熱を持っていて。
その熱をもっと感じようとしたディーノは少しだけ強い力で押し返された。

「?」

どうしたのかと雲雀を見つめるとらしくなく可愛く目元を赤くした顔が飛び込んでくる。

「一つ言っておくけど」
「うん?」
「それこそ、僕だって「こっち」は初めてだからね」
「!!」

可愛すぎる雲雀の言葉に。
緊張どころか理性すら吹っ飛ばしたディーノが次の日しこたま怒られたのはまた別のお話。







Fine







最後の雲雀の台詞をどうしても書きたくて追加してしまいました。
いい年して子供みたいな恋愛してる3225も萌えだと思うのは自分だけだろうか……。




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