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胸の中がもやもやする。 病室で一人ぼんやりとしていたディーノは己の胸のうちに渦巻く不快感に僅かに眉を寄せた。 先の代理戦争で受けた傷は決して浅いものではなく。 同じく傷を負った者達と揃って並盛の病院のお世話になっている。 心臓がないだの、内臓がめちゃくちゃだの言っている奴らに比べたら全然マシなわけだが、それでもそうそう自由が利かない。 だからこそ、行動を起こす気にもなれず、もやもやを抱え続けたまま早数日。 そろそろ気が滅入ってきた。 「あー、うー。どうすっかなぁ……」 こんな気持ちを抱えたのは初めてだった。 誰かを想って己の進退に悩むなんて。 自分で言うのもなんだが、見目はいいし、頭も悪くない。 地位と金もある人間にしたら性格だっていい方だろう。 それこそ、相手が一般人で巻き込んだらまずいと考えた時に悩む程度で。 イタリア男の面目にかけて、好きになったらすぐに告白したし、実際、振られたことなんてほどんどない。 そんな自分がこうも迷うのは相手が相手なせいだった。 なにせ、想い人は同性でありまだ子供と言える年齢の人。 加えて言えば同盟間にあるとは言え、別のファミリーに属している。 たとえこの想いが通じたとしても、ざっと考えただけでも問題ばかりしかなく。 重ねて言えば、上手くいくのかと言われたらはっきりいって微妙だった。 あの相手にこの手の話が通じるのかどうかすら怪しい。 「もー、どーしてこうなったんだ」 出会った時からずっと気にはかけていた。 でも、それはあの子が自分にとっての生徒であったからで。 戦いに関する家庭教師だから弟子と言った方が正しいかもしれない。 とにかく、初めてのそんな存在に手をかけないわけがなく。 とんでもない問題児なために苦労も一入だったが、その分思い入れが深いものになるのは自然なことであって。 家庭教師を頼まれたのはボンゴレリングに纏わる戦いの時だけだったのだが、その後もついつい構ってしまっていた。 「そもそもアレが反則なんだよな……」 雲のボンゴレギアの性質を知った時は思わず顔がにやけた。 師匠だなんて認めないとかなんとか言ってたくせに。 咬み殺す以外に馴れ合うつもりはないなんて言ってたくせに。 ギアに仕込まれていたチェーンの性能は完全に鞭のそれだった。 前々からトンファーにギミックとしてチェーンは仕込まれていたが、それもそう長いものではなく。 あのままの長さだったら言い訳も出来たのだろう。 しかし、雲の増殖を使って伸ばされていくチェーンの有様はまさに鞭であったし、実際彼の使いようもそれを意識しているとしか思えなくて。 更に言わせてもらうと、それを使って戦闘をする機会は明らかに多くて。 一生そんな武器は使わないんじゃなかったのかと言ってやりたかった。 どう考えても自分を意識されているという事実に感じたのは喜び。 それに加えて、たとえ咬み殺すのが目的とは言え、代理戦の時に見せた自分への執着はある種の特別ではないのかと感じてしまって妙に落ち着かなかった。 彼が他の存在を自分の中に受け入れるのは極珍しいことだろう。 その中に入れている上に、おそらく他とは少し違う位置に居る。 そんなことを意識すればするほど自分の中にあった気持ちが浮き彫りになってくるのを感じていた。 それが明確なものになったのはイェーガー戦の時。 ザンザスにスクアーロ。 白蘭に骸までいた。 それなのに手も足も出ずに次々と戦闘不能にされていく中で自分も深手を負った。 トドメを刺されそうだったところを助けてくれたのは他でもない彼で。 本人曰く借りを返しただけらしいが、それでも嬉しかった。 だが、そのすぐ後にそんな気持ちなどふっとんでしまうくらいの衝撃が自分を襲った。 誰もが油断した……そう、彼自身もそうであったその時。 イェーガーの魔の手が彼を捉えた。 あの瞬間の衝撃の激しさは言葉では言い尽くせない。 怪我で一歩も動けない自分を真剣に呪った。 体の芯まで冷えるような感覚。 綱吉が間に合わなかったらと考えると今でも手が震えた。 彼を失いたくなかった。 彼の存在が消えてしまうことが耐え難い恐怖であることを思い知らされた。 そうして自覚した。 自分にとって彼がどれだけ大きな存在であるのかを。 それを自覚してしまったら、自分の中にある気持ちに気がつくのなんて簡単なことだった。 彼が欲しくて仕方が無い。 ただそこに存在してくれればいいなんて綺麗ごとを言っている余裕なんか更々無い。 今までのように振られたからといって諦めることが出来るとは到底思えない感情。 こんなものによく今まで気がつかなかったと我ながら思う。 もしかしたら、危うさすら感じる想いであるが故に無意識に制御がかかっていたのかもしれない。 しかし、ただ抑え込んでいても消えるわけではないし、むしろそうして放置してしまったからこそ今困っているというか。 「こんなになってから自覚したってどうしろっつーんだ」 許されるなら今すぐ想いを伝えて攫ってしまいたい。 だが、そんな簡単にいく相手ではないのは確かで。 だからといってすでに退くことなど考えの隅にも及ばないこの状況。 「当たって砕けろ……だっけ?」 日本語でそんなような言葉があった気がする。 自分でどうにかできないのなら、いっそ彼に完膚なきまでに叩きのめされる方がいいのかもしれない。 もちろん、もし、ダメだったらの場合だが。 「上手くいく可能性だって無いわけじゃないしな」 なにせ、彼にとっての特別の分類に入っている自信がある。 恋愛にはきっと疎いと思う。 卑怯だと言われてもいいから、そこに付け入る気も満々だ。 考えなければならない問題は山のようにある。 けれども、この胸のもやもやを抱えたままでは今後いろんなことに支障が出てくるだろう。 だったら、行動あるのみだ。 「よし、行くか」 怪我で動けなかった分、考えられるだけ考えた。 それで至った結論にディーノは伸びをすると病室のベッドから抜け出した。 |