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病室の扉を開けると外で待機していたボノが振り返る。 「ボス? どこへ行くつもりです?」 「ん、ちょっとなー」 「一人では……」 「大丈夫。すぐそこだよ」 ディーノは心配する部下に笑いながら斜め前の部屋を指差した。 彼もまた先の戦いで怪我を負ってこの病院に居る。 元から近くの病室には居たのだが、つい先日はしゃいだ馬鹿者たちのおかげで病院の一部が半壊し、関係者と思われる者達はまとめて隔離されたのだ。 正直バラけさせた方がいいと思うのだが、個々でも問題があるといえばあるので病院側の処置も仕方ないことか。 むしろ、追い出されなかったことが奇跡とも言う。 「それにこの空間に手出ししてくる命知らずはそう居ねぇから」 いくら手負いとは言え、名のあるマフィアの手練れたちが揃っているここへ挑む奴がいたとしたら、よほど腕に自信があるか馬鹿かの二択だろう。 そして前者のハードルは高すぎる。 だから、心配するなと言いながら目的の部屋の前に歩み寄る。 「恭弥〜。入るぜ」 一応ノックをして呼びかけるが、返事は待たない。 ガラリと扉を開けるとヒバードの群れが飛び立った。 「おぅ! ……ホント、これ増えすぎだろ」 何がどうしてこんなにも増えたのか。 病室を所狭しと飛び回る黄色い物体に苦い笑いしか浮かばない。 「文句言いに来たなら帰って」 ヒバードの合間から飼い主の不機嫌そうな声が飛んでくる。 それに慌ててディーノは手を横に振った。 「違う違う。ちょっと話をだな……って、ぶ!」 顔に激突してくる黄色い毛玉。 それを傷つけないように両手で捕まえると何よりも先に訴える。 「落ち着いて話したいからこいつらなんとかしてくれ!」 「僕は別にあなたと話すことないんだけど」 「そんなこと言わずに!」 せっかく奮い立たせてきた気持ちが萎えてしまいそうで必死に訴えると雲雀は渋々といった顔を見せた。 「仕方ないな。……ほら、ちょっと遊んでおいで」 ベッドから降りて傍にあった窓を全開にする。 そして、そこからヒバードの群れが全て飛び立つのを確認して窓を閉めた。 「これで満足?」 「おう。あんがとな」 問いかけならが雲雀は再びベッドに戻ると縁に腰掛ける。 ディーノに向かい合う位置に座ってくれたのに気をよくして近場にあった椅子を引き寄せると目の前に座った。 雲雀が少なくとも話を聞こうという姿勢を見せてくれたのが嬉しくて、ディーノは必要以上に笑顔になってしまう。 それに気がついて雲雀は対照的に顔を顰めた。 「なにニヤニヤしてるの。気持ち悪い」 「気持ち悪いはないだろ」 「気持ち悪いよ。……なんか、嫌な感じがする」 「嫌って……」 これから告白しようと思っていたのに次から次へと気力を削がれていって、なんだか哀しくなってくる。 笑顔から一転してがくりと項垂れたディーノに、雲雀は僅かに首をかしげた。 「……どうしたの」 様子がおかしいということは察してくれたらしい。 珍しくも気遣うような発言をしてくれたのに己を奮い立たせ、ディーノは一息吐くとぐっと顔を上げた。 「あのな、恭弥」 目の前にある漆黒の瞳。 吸い込まれてしまいそうな黒に自分の想いの全てを注ぎ込むつもりで見つめる。 「オレ、お前のことが好きなんだ」 はっきりと言い切るとその場に落ちる沈黙。 告白を聞いていたその無表情のままで固まっている雲雀に、ディーノもどうしていいのかわからず動きを止め続けてしまう。 どれくらいそうしていたのか。 ようやく雲雀の唇がピクリと動いた。 「……どう言う意味で?」 「こんだけかかってそこかよ!」 思わずつっこむディーノ。 どこまでもムードも何もない展開にどうしてこうなったと内心涙する。 「だって……どう考えてもおかしいよね?」 「そうか?」 「……あなた、頭大丈夫?」 「…………」 ついに頭の心配までされて何も言えなくなってしまう。 「この前の騒動で頭でも打ったんじゃないの? さっさと自分の病室戻って寝たら……」 「恭弥!」 鼻の先にも引っ掛けないような態度を貫く雲雀に言葉より先に手が出た。 「え……ちょっ……!」 両の二の腕を掴み動きを拘束すると、雲雀が動揺している隙にその言葉を奪うようにすばやく唇を押し付ける。 まだ治りきっていない傷が痛んだが、そんなことは気にしていられない。 ただ触れ合わせるだけのそれが続くこと数秒。 そこではたと気がつく。 一瞬で反撃されて怪我が悪化するくらいな覚悟はあった。 しかし、それが一向に訪れる様子が無いのだ。 「……えっと……恭弥?」 ゆっくりと体を離して雲雀を伺い見る。 するとずっと目をあけていたらしい雲雀と視線がかち合った。 「怒った?」 「別に」 無表情に淡々という雲雀からは何を考えているかが全く計り知れない。 ただ少なくとも怒ってはいないらしい。 「……あの……」 「本気なの?」 予想外の展開に完全に思考が停止してしまったディーノに雲雀がポツリと問いかける。 相変わらず表情は変わってはいないがやはり怒っている様子は無い。 「ああ、本気だ。勢いでも気の迷いでもない」 ましてやふざけてなどいるわけがない。 与えてもらった想いの真剣さを告げるチャンスにありったけの気持ちをこめる。 間近で熱く見つめているとふと雲雀が目を伏せた。 「……そう」 それだけ言うとチャキリと音を立ててトンファーを取り出す。 「え……恭弥さん?」 怒ってはいないのではなかったのか。 雲雀の突然の戦闘モードにディーノは思わず後退る。 「何で逃げるの?」 「いや、話の途中だし!」 「ちゃんと聞いたよ」 「返事は!?」 どうやら雲雀の中では会話終了していたというこの事実。 それに理不尽さを感じながら叫ぶと面倒そうに雲雀は答えた。 「勝手にすれば?」 「え」 「別にあなたの頭がおかしいのは今に始まったことじゃないしね。僕はあなたが闘ってくれればなんでもいい」 「ええええ」 なんという予想の斜め上。 振られるでも受け入れてもらえるでもなく、あえての放置。 「ねえ、さっきの動きが出来るなら闘えるよね?」 「そういう判断?」 先程の口付けは雲雀を押さえ込んだことだけにしかなっていないというのか。 これはもう恋愛感情に疎いとかそういうレベルをも超えている気がしてならない。 「なあ、恭弥」 「なに?」 「勝手にしろってことは、オレが好きだって言っても、抱きしめても、キスしても構わないんだな?」 「邪魔だったら随時排除するけど」 「……」 邪魔か否かの問題だけと言うことは行為に対しての嫌悪感はないと判断していいだろう。 「わかった。なら、勝手にさせてもらうぜ」 「うん。じゃあ、これで話は終わりだね」 ならば、闘りあおうとトンファーを構えた雲雀にディーノはにやりと笑った。 含みを持った表情に、雲雀が僅かに眉を寄せた隙にもう一度掠めるように唇を奪うと扉に向かって移動する。 「あ、ちょっと!」 「続きは怪我が治ってからな」 投げキッスと共にひらりと身を翻して病室の外に出ると中から不満そうな声があがった。 しかし、それは聞こえなかった振りをしてさっさと扉を閉めてしまう。 「よーし、頑張って怪我治すぞー」 なにはともあれまずはそれからだ。 当たってみても砕けることはなかった。 むしろ、想いを告げた後にも自分を求めてくれる気持ちになんのぶれも見えなかった。 たとえ今は戦いに関してだけだとしても嬉しいことには変わりはない。 心の距離が離れることが無かったのならば、後は詰めるだけだ。 諸々ある問題はその都度考えていけばいい。 もはや己を止めるものは無し。 妙にご機嫌な姿にボノが怪訝そうな顔を見せるのを尻目に、ディーノは意気揚々と病室に戻った。 |