怪我の具合もだいぶよくなり。
そろそろ本格的に本国へ帰らないと仕事が詰まっている状態である為に半ば強制的に帰国が決まった。
本来ならば飛行機に乗れるだけ回復したら帰るべきだったのだろうが、少しでも雲雀の傍にいたくてなんだかんだと理由をつけていたが、さすがにそれにも限界がある。
積みあがっているであろう仕事の山を考えればしばらく顔を見ることも出来なくなる愛しい人を記憶に刻み付けたくて、今日もディーノは雲雀の病室へと向かう。
告白したあの日からそこへ通うのは日課になっていた。

「邪魔するぜ」
「また来たの」

闘いもしないくせに来ると毎度不機嫌そうな顔を見せる雲雀に対してディーノはにこやかな笑みを浮かべる。

「だって、顔見たいし。声聞きたいし」

更に言うなら触れたい。

もう後僅かで離れてしまうことを考えると我慢が出来なくてつい手をさし伸ばした。

「なに……?」
「んー。触りたかったから」

頬に触れた手で優しく撫でると雲雀はくすぐったそうに身を捩る。
しかし、振り払うような様子は見られなかった。

この数日で軽いスキンシップぐらいならば受け入れてくれるようになったのは驚きだった。
やはり自分は元々特別だったのだろうかと思うと心が躍る。

「なぁ、恭弥」
「なに」
「……お前、他の奴になんて触れられてないよな」
「こういう風に?」
「そう」
「そんな物好き、あなたくらい……あ……」

言いかけて何かに思いついたらしく雲雀は小さく声をあげた。
その様子につい食いついてしまう。

「誰か居んのかよ!?」
「あなたといい勝負で馴れ馴れしいのは居る」
「誰だよ」
「白蘭」

即答された相手にあいつかと壁の向こうの病室に向かって視線を投げた。

彼もこの病院で療養中である。
鉢合ったことはないが、雲雀のところへも顔を出していたのか。

「てか、あいつ恭弥にちょっかいかけるとか」
「……彼は誰にでもそうじゃない?」
「誰にでもではないだろ」

確かに気に入った相手にはスキンシップ過多なタイプではあるが。

「変なことされてないか?」
「あなた以上に変なことはないよ」
「じゃあ、どのくらい?」
「抱きついてくるくらいかな」

なんでもないことのように告げる雲雀に沸き起こる不安。

「好きなようにさせてるのか?」
「妙な言い方しないでよ。彼のは純粋な好意。この子達と一緒」

言って雲雀は、相変わらず複数羽飛んでいるヒバードのうち、おそらく今までずっといた個体であろう一羽をそっと撫でる。

「あなたみたいに邪じゃない」
「邪って……お前なぁ。だいたい、そんなのお前がそう思ってるだけで……」

そこまで言ってふと気がついた。

「あれ? 邪? お前、そういう認識あったのか」

告白したときのあまりの頓着の無さに、そういった区分などまだ無いのかと思っていた。
だからこそ、自分が触れるのにも嫌悪感を感じずにいてくれるのだろうとも思っていたのだが。

「あ、あれ?」

恋愛対象として触れられている認識があった。
それでいて、好きに触らせて居てくれた。

それはとても重大な意味を示すのではないだろうか。

「何を突然慌ててるの?」
「え、いや、だってさ」
「僕、ちゃんと本気かどうか聞いたよね」

それに本気だと答えたのだからそういうことなのだろうと思っていた、と。

「違ったの?」
「や。あってる。あってるよ」

小首を傾げる仕草が見てるだけで昇天しそうなくらいかわいい。
溢れ出てきた愛しさに暴走しそうになる己を諌めるのに並ならぬ精神力を要した。

「きょ、恭弥」
「なに」
「……オレ、後二日くらいでイタリアに帰らなきゃいけなくなったんだけど」

こんな事実を知ってしまって。
本当ならもっと傍に居たい。
けれど、そんなわがままは許されない。

「一秒でも早く時間作ってすぐまたこっち来るから!」

誓うように約束を口にする。
そんなディーノに雲雀は少しだけ眉根を寄せた。

「帰るの……?」
「う、うん……」
「まだ闘ってないのに?」
「そ、それは……」

気にするべき点はそこかと思いつつ。
触れたりすることを許されるのは、それさえあればという条件付だったような気がするとも思いつつ。

「わかってくれよ、恭弥。オレだって心苦しいんだ。その代わり、次にきた時は目一杯闘ってやるから」

その時にはお互い万全の状態になっているはずだろうと言うと雲雀の眉間の皺が消えた。

「……そうだね。怪我を理由に手加減されてもむかつくし」
「おお、わかってくれたか!」
「闘うとき、僕の満足いくまで闘ってよ?」
「わ、わかった。約束する」

満足いくまでという言葉に一抹の不安を覚えなくも無かったが、せっかく機嫌を直してくれたのを無駄にするわけにはいかない。
大げさなほどに頷いてみせると、雲雀は満足そうに表情を和らげた。
それがまたかわいくて。
意識するより先に体が動いて、雲雀をそっと抱きしめた。

「好きだよ、恭弥」
「……そう」

何度目かの囁きに返ってくるのは変わらぬ気のない返事。
けれども、抱きしめる腕を振り払われないだけ想いは届いてるのだと信じたい。

「……うん、やっぱり違うね」
「ん? なにが?」
「白蘭が引っ付いてくる時と。なんだか、温かさが違う」
「……なあ、恭弥それって……」

触れる方の問題ではなく、触れられる方の問題もあるのではないか。

そうは思ったものの、口にすることはしなかった。
きっと、今はまだそこまではわかってもらえない。
そんな気がするのは今度こそ勘違いではないだろう。

「ホント、すぐにまた来るから。すぐ抱きしめに来るから」
「その前に闘うんだって」
「わかった、わかった」

どこまでも闘いに拘る雲雀に笑いながら唇を寄せる。

軽く触れ合う温かい柔肉。
いつの間にかちゃんと目蓋の裏に隠されるようになった瞳。

今ならわかる。
先日のあの告白は放置されたのではなく。
雲雀なりに受け止めてくれたのだと。

この幸せを糧にしばしの別れを凌ごう。
次に会ったときはもっともっと近い存在になれるように祈りながら。






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