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きっかけがなんであったのかはもう思い出せない。 ただとてもくだらないことだったことは確かで。 半分騙されていたと言ってもよかったかもしれない。 それでも、その後に関係を続けることを選んだのは自分。 心としては曖昧なままに体だけは深く繋がって。 嫌ではなかった。 ……それが、まずかった。 彼の手のひらが自分の肌に馴染む度に快楽は増し。 いつの間にか彼に触れられるのを待ちわびるようになってしまっていた。 なのに、持って生まれた性格故に突き放すような態度しかとれず。 いつまで経っても懐いてくれないなんて笑われたこともあった。 あのなんの陰りも無い笑顔が今でも胸に突き刺さる。 そこで笑われるだけな時点で気付いてた。 彼にとって自分との関係が遊びの一環でしかなかったことなんて。 大事にはされていたと思う。 ただ、その感情が体を繋げるに相応しくないものであっただけ。 きっと彼はお互い割り切った関係であると信じていたのだろう。 だから、終わりが来るのなんて当たり前のことだった。 いつもと変わらぬ何でもない日に。 笑って関係の終了を告げられた。 理由は簡単で。 彼に恋人が出来たらしい。 自分も高校を卒業してアメリカの大学に在籍しつつ財団を立ち上げたところだったから。 ちょうどよかっただろうと言われるのに反論することなんて出来なかった。 師弟であることは変わりないのだから今後もよろしくなどと言われて。 あっさり去っていった彼に涙を見せる隙すら持たせてもらえなかった。 己の性格を初めて呪った瞬間だった。 彼が好きだった。 確かに最初は体に引きずられていたかもしれないけれど。 今ではそれだけではなく、心で彼を求めていた。 何故、素直になれなかったのか。 プライドだったり、羞恥だったり。 ただ単純に天邪鬼なだけだったり。 彼はきっとそういったものを察してくれるなんて甘いことも考えていたのかもしれない。 あのへなちょこに何をそんなに期待していたのかと笑われても何も言えない。 恋人のことを話していた時の表情が頭から離れない。 あんな顔をするなんて初めて知った。 いつだって優しかったし、いつだって笑顔を向けてくれたけど。 あんなに甘い表情を見せることがあるなんて知らなかった。 胸が痛くて、息が苦しかった。 彼の中で自分がそんな対象に全くなれていなかったことが哀しかった。 誰かにとられてしまったとか、そんなことを考える余裕すらなく。 彼の気持ちが自分の考えていた以上に遠くにあったことが辛かった。 「……僕は、好きだったんだ……」 誰も居ない自分の部屋で、初めて言葉にしたそれは涙のせいで震えていて。 もっと早く、彼の目の前で言えていたら何かが変わったのだろうか。 後悔先に立たずとはよく言ったもので。 今更色々言ったところで何にもならない。 そんなことはわかっている。 そもそも出てしまった結果に対してこんなにもくよくよしている時点で全く自分らしくなくて。 どうせらしくないことをするのだったら、素直になっておくべきだったのだと考えてしまい、ループする思考にひどく落ち込んだ。 もう忘れてしまおう。 何度もそう考えた。 しかし、その方法が全然わからない。 忘れようとすればするほど彼の存在の大きさを知るだけで。 「……ディーノ」 ここに居ない存在に呼びかける。 面と向かっては一度も呼んだことの無い彼の名で。 今となっては尚更に変えることが出来なくなった呼び方に感じるのは苦しさだけだった。 |