大学の構内にあるカフェテラスでぼんやりとしながら、通り過ぎる人々を見る。
お国柄か恋人同士は遠めで見てもわかるくらいべたべたしながら歩いているのがやけに気に障って。
無意識に眉間に皺を寄せたところで後ろから声をかけられた。

「あれ〜。ヒバリちゃん、ここの大学だったの?」

いつだって楽しげで抜けた感じがするくせに、どことなく油断できない響きを持った声。
久しく聞いていなかったそれに雲雀が振り向くと、声の主である白蘭はにこやかに手を振ってきた。

「やあ。久しぶり。ここ座ってもいい?」
「好きにすれば」
「じゃあ、遠慮なく」
「……今日は浮いてないんだね」
「流石にこんな一般人ばっかのとこでそれはしないかなー」

雲雀の隣の席に座った白蘭に僅かに感じた違和感を口にすると苦笑を返される。
言われた言葉にそれもそうかと納得して、すっかり冷めた紅茶に手を伸ばした。
隣で白蘭も手にしていたコーヒーを口に運ぶ。
薫ってくる甘い匂いにどれだけ砂糖を入れているのか気になった。

「ねえ、君。コーヒー飲む意味ある?」
「あるある。コーヒーの風味がすることに意味がある」

相変わらずわけのわからない発言。
そんな馬鹿みたいなことを言いながら意味も無く明るさを振りまいてみせるところがどこかの誰かと似ているな……と考えてしまった自分に嫌気が差した。

「なんか渋い顔してるねぇ」
「気にしないで。……ところで、君もここだったっけ?」

表情の変化に目敏く気がついた白蘭に、話を逸らすように問いかける。
馬鹿のように見せてるだけで、全く馬鹿ではない相手であることはわかっているから何かあるのは気付かれただろうことは予測できる。
それでも、彼は雲雀に乗ってきてくれた。

「ううん。僕は別〜。ただ、今日ここで興味深い講義があったから聞きに来たんだよ」
「なるほどね」

まあ、よくある話だ。
元々知識欲の強い白蘭のことを考えれば尚のこと納得できる。

「でも、君の脳内に残る知識と比べたら子供だましじゃない?」
「そうでもないよ。やっぱり色々変わってるからね。僕の知らないことも結構あるし。それに、僕も全部持ってこれたわけじゃないからね〜」

それもそうかと思う。
かつて世界を時空を超えて滅ぼした相手がそのままの状態で復活したら黙ってない奴らは多いだろう。
そんなこともなく、彼がこうして自由に暮らしているということは様々な制限があったのだと推測できる。

「ま、その方がいいんだけどね。強くてニューゲームとかしたらつまんないし」
「意味分からないこと言わないでよ」
「ヒバリちゃんはゲームしないからなぁ。ん〜、僕は白龍連れてこれただけでいいってことかな」

ユニを守れるだけの力があればいいと笑う。

「今もあの子の傍にいるの?」
「必要なときだけね。僕が常にいる必要はない。それはγ君の仕事だよ」

なんの衒いも無く彼はそう言い切った。

白蘭はユニを何よりも大切にしている。
とても慈しんでいる。

普通なら手に入れて自分だけのものにしてしまいたいという欲求が生まれてもおかしくないその状況で、彼はそれを選択しなかった。
ユニとγの関係を丸ごと受け入れて。
恋愛など笑ってしまうような心で守ることを決めた。

今までの雲雀はそんな彼に何も思うところは無かった。
そういった形もあるのだな……といったくらいで。

けれども、今は少し違った。

「君は……凄いね」

自分もそんな風に思えたらこんなに苦しくなかったのではないか。
そうは思うものの、とても真似が出来る気がしない。

自分には絶対出来ないと素直に思えてつい口に出してしまった。

「え、なに。どうしたのヒバリちゃん」

珍しくも驚いたような表情をした白蘭になんでもないと言って顔を背ける。
すると、視界から消えてしまった為に何をしているのかはわからなかったが、白蘭はなにやら妙に手や顔を動かす気配を見せた。

そして、しばらくの後にポンッという音が聞こえて肩に手が置かれる。

「僕と遊ぼう!」
「は?」

なにがどうなってその結論が出たのかはわからないが、白蘭は何か確信したような顔をして雲雀の手を引っ張り立ち上がった。

「遊ぶって……」
「なんでもいいよ!」

強引に引っ張っていく腕を振り払うことも忘れて問いかけると満面の笑みが返ってくる。
自分に対してそんな風に笑いかける人間なんて一握りで。
嫌でも思い出してしまう影にまた胸が痛む。

「ヒバリちゃん!」
「なに」
「ご希望とあらば、白龍使って遊んでもいいよ」

沈みかけた気持ちを引き止めるかのような明るく大きな声。
その声で提案されたのは雲雀にとっては嬉しいお誘い。

「……そういえば、君とはまだ一度もまともに闘りあってなかったね」

色々な制限がついたとは言え、かつては未来の自分ですら倒されたという相手。
相手にとって不足は無い。

「僕らが闘りあったら、大変なことになるから場所選ばないとね〜」
「いい場所知ってるよ」

すっかり乗り気になった雲雀は、引かれていた手をそのままに白蘭より前に出る。
自然に引っぱる役が逆になったのに白蘭は楽しそうに笑った。

「やっといい顔したね。そのくらいの方がいいよ」
「すぐにその余裕なくしてあげるから」

気を使われたのなんてわかっている。
それでも、彼の提案は魅力的だったし、なにより今一番気を紛らわさせるにちょうどいい。
彼ならきっと本気でぶつかっても文句一つ言わないだろう。

「とりあえず、死なないでね」
「そのレベルでやるの〜?」

物騒な物言いにもケタケタ笑うだけ。
表面の明るさはともかくとして、内面的な感覚は自分に近いかもしれないと思ったら少しだけ親近感が沸いた。





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