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通っている場所は違えども、在籍している国は同じ。 州は違ったが、ヨーロッパ圏や日本に行くのに比べたら格段に近い距離。 財団の関係で世界中へ移動することは多いが、それでも学生であるうちは拠点はその場所である為に必然的に白蘭と会うことが増えた。 馴れ馴れしいようで距離を測るのが上手い。 財団の関係の話をしても支障が無い相手であるし、頭は悪くない。 むしろ、天才の域。 手合わせをしても充分な手ごたえがある。 これだけ揃っていれば付き合いを続けるのに何の疑問も抱かないのは当然のことだろう。 相手にとって自分と付き合うことにどんなメリットがあるのかはわからないが、彼は暇があれば声をかけてくるし、こちらから誘った時も来れる距離にいれば来てくれる。 そうこうしているうちに自分で思っている以上に彼を受け入れてしまっていたらしく、お互いの家に泊まりに行くことすら出てきた。 「じゃー、ヒバリちゃんはベッド使っていいから」 ワンルームのマンションに住んでいる白蘭は雲雀が泊まりに来るとベッドを譲って自分はソファーに丸くなる。 最初のうちは気が退けなくもなかったが、浮きながらだって寝れると言われてしまって遠慮する言葉をなくしてしまった。 雲雀が寝入ろうとするとすっと白蘭の気配が消える。 目を開ければそこに居るのだが、気配だけだと誰も居ないように感じる。 人の気配に敏感な雲雀のためにしているのだろうが、寝ながら気配を消すとは器用なことをすると毎度思った。 完全に眠りについてしまうと一人で寝ている時のようで。 つい油断が出てしまったとしかいいようがない。 誰かが近くに居る時は絶対に見ることはなかった夢。 今でもどうしても忘れられない人と触れ合えていた日の記憶。 それが目蓋の裏に映し出されてしまった。 はっとして目を覚ますと頬を濡らす感覚があって。 しまったと思いながらもそれを止めることが出来なかった。 「……ヒバリちゃん」 いつの間にかすぐ傍に来ていた白蘭に呼びかけられるのにビクリと肩を揺らす。 見るなと言いたくて掛布団を顔の上まで引っ張ると僅かに覗いていた頭に手が触れるのがわかった。 何も言わずに撫でてくる手。 この話については触れたことは一度も無かったが、それでも彼は全部わかっているのではないかと感じた。 「ねえ、白蘭」 「なぁに〜?」 「どうしたら、君みたいになれるかな」 どうしたら白蘭のように達観した視点に立てるのだろうか。 「ん〜。僕の場合は特殊だと思うけどね〜」 そもそも存在を許されただけでいいのだと言う。 「だってさ、本気で憎まれたっておかしくないことしたんだよ? それなのにあんなに優しく助けられちゃさ。もう返すものしかないって話じゃない?」 求めるなんて選択肢は最初から用意されてないんだと笑う姿に悲壮感は欠片もない。 「それでも、その事実をあっさりと受け入れられるのが僕には考えられない」 「あはは〜。それはたぶん、ヒバリちゃんが自分が思っているほど自由に生きてないし、人から何かを奪ってないからだよ」 誰もが雲雀のことを傍若無人だの唯我独尊だの言う中で。 さらっとそんなことを言ってしまう白蘭の言葉は、乗せられる声色に対してとても重く感じた。 「達観しすぎだよ、君」 なんだか自分がすごく小さく感じてしまって笑いすら漏れる。 すると、白蘭は嬉しそうに笑んだ。 「あ、笑った。よかった。少しは元気出たみたいだね」 そういえばいつもなら朝が来るまで苦しさが続くのにもう既に随分と楽になっている。 彼は不思議な存在だと思う。 良くも悪くも純粋すぎるからかなんなのか。 普段素直になんて絶対になれないと思っている雲雀ですら引きずられてしまう。 「ねぇ、白蘭。僕と遊ぼうよ」 だからかもしれない。 そんな誘いをかけてしまったのは。 「僕は構わないけど、ヒバリちゃんは本当にそれでいいの?」 「いいんだ」 操を立てたい相手は忘れなければいけない相手だ。 そんなものはいっそ壊してしまえばいい。 「もっとなりふり構わず行ってみればいいのに」 「今更だよ」 そうかな〜と白蘭は困ったような笑顔を見せる。 「意外にいけるかもよ」 「なんでそんなにけしかけるのさ」 「だって、ヒバリちゃんが本当に幸せになるにはそれが一番でしょ? 僕もヒバリちゃんのこと好きだけど、きっと代わりにはなれない」 「代わりじゃなくていいんだよ」 彼ぐらいの距離が好ましい。 許されるならその距離から、この痛みが消えるまでを少しだけ支えて欲しい。 ただそれだけなのだ。 「忘れられるの?」 「忘れるさ」 今までまったくわからなかった忘れる為の方法。 その糸口が見つかったのだから。 本当なら誰かに頼るなんてしたくなかった。 頼り方すらわからなかったといった方が正しいか。 その中でこんな理想的な距離感の相手を見つけられたのは幸いだったと思う。 「君が居れば大丈夫」 「なんだかとっても情熱的な言葉もらっちゃったな」 そこまで言われちゃ仕方ないと布団に潜り込んでくる。 全体的に色素が薄い為に冷たい印象があった肌は思いのほか温かかった。 「ヒバリちゃん。一つ言っておくけど」 「なに」 「僕は君が思ってるほど優しくはないからね?」 「……残念だけど、優しいと思ったことは一度も無いよ」 「わあ、それはひどい」 全くひどいと思っていない笑い声を上げた白蘭はそのまま腕を回してくる。 その手に嫌悪感がわかなかったことに少し安心した。 これならきっと大丈夫。 そう信じながら彼と熱を酌み交わしす。 ここへきて思っていた以上に心も体も渇きを感じていたことを思い知らされたのに、苦笑しか浮かばなかった。 |