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夜中に頭を撫でられる感覚で目を覚ます。 そういった時は必ずと言っていいほど枕が涙で濡れていた。 白蘭と夜を共にするようになってから。 独りの時に泣くことは減ったのに、何故かこうして一緒に寝ている時に泣いていることが増えた。 前と違って目が覚めて苦しいことは無い。 むしろ、どんな夢だったのか忘れてしまうのがいつものことで。 「もう大丈夫だよ」 「うん」 意識が覚醒してしまえば何の問題も無い。 もう撫でなくていいと伝えるとすんなりと手が引かれた。 白蘭は雲雀が泣き出すと必ず気付く。 そうして目が覚めるまで優しく撫で続ける。 夢と現の境目で哀しみを拭い去ってくれる手のひらには、己の欠点である天邪鬼な気持ちすら敵わなくて。 素直にありがたいなんて思ってしまう。 「そろそろ大丈夫かな……」 ディーノとの関係が終わってから後。 彼と顔を合わせることを意図的に避けてきた。 顔を見て、声を聞いて、耐えられる自信が無かったからだ。 けれども、いくら避けていても避けきれない状況とは出てくるもので。 綱吉が次期ボスにほぼ確定しつつある今、その可能性はどんどん高くなっている。 いざ出会ってしまった時に平静で居られるか否か。 その時になってみないとわからないが、白蘭のおかげで大丈夫な可能性は格段に上がったと思う。 「んー? 近々なんかあるのぉ?」 「守護者集合しろってパーティがある。ここ最近のを全部蹴ってたら、リボーン直々に出ろって言われちゃったよ」 綱吉に言われるよりリボーンに言われる方が逆らえない。 赤ん坊から幼児の姿にまで成長した彼はその体の成長と共に醸し出す迫力を増していた。 成人の姿にまで成長したらどれだけ強いのだろうと思わずには居られない彼は、雲雀にとって数少ない一目置く存在だ。 「あはは。彼に言われたら断れないね」 「本当にね。彼の場合、強制するからにはちゃんと理由もあるし」 彼がどうしても出なければならないと判断したのならば、無碍にするのは得策ではないと言いきれる。 「それで、そんな大きなものなら同盟間のボスは来るだろうと」 「そういうことだね」 しかも、無駄に目敏いから隠れても発見される可能性はかなり高い。 相手としてはなんの悪気も無いわけだから、見つけても声をかけてこないなどということはないだろう。 「大丈夫? 僕もなんとか潜り込もうか?」 「そこまでしてくれなくても大丈夫だよ」 絶対に平気かと言われたら頷けはしないが、そこまで心配されるほどではない筈だ。 未だ夢に涙することがあるとは言え、それを日常に引きずることは無くなっている。 この期間にそこまでこれたこと自体が白蘭の力によるところが大きいのだから、これ以上頼るのもどうかと感じた。 「きっと、もう……大丈夫」 そうであると願いたいと目を瞑るとふわりと頭を撫でられる。 「君が辛くならないことを祈ってるよ」 頭を撫でていた手が頬にすべり、反対側の頬に口付けを寄せられてくすぐったさに身を捩った。 そこでふと沸き起こった疑問。 「そういえば、君ってキスしてこないね」 体を重ねるようになってからも、白蘭は一度も唇に口付けてきたことが無い。 どこかの誰かなど挨拶からしてそうであったのに。 首をかしげた雲雀に白蘭はクスクスと笑った。 「こんな話を知ってるかい? 遊女は誰にでも抱かれるけれど、唇だけは想い人にしか許さなかったらしいよ」 大概の者がのっぴきならない状態から体を売り物にしていた彼女達。 だからこそ、神聖な部分を残しておきたかったのか。 真実はどうであれそう語り継がれるだけの切実な想いがあったのは確かなのだろう。 「本当にそうだったかはわからないけどね。……でもさ、その気持ちちょっとわかる気がするんだ」 「最後の砦を残す気持ち?」 「それもだけど、そこに唇を選ぶ気持ち」 唇を触れ合わせることに特別な想いを感じることに共感するのだと。 うっとりとしたような、それでいてどこか物悲しそうな表情をする白蘭に雲雀はなんともいえない気分を感じた。 「……それが君が僕に引いた一線か」 あくまで恋人同士ではないということ。 その立ち位置を望んだのは自分であるのに少しだけ気持ちが沈んだのは何故なのか。 「そんな顔しないで。僕はヒバリちゃんを傷つけたくないだけなんだから」 表情を暗くした雲雀に、白蘭は明るく笑いかけた。 「ヒバリちゃんは魅力的だからね。もしかしたら特別感じちゃうかもしれないし」 「それならそれでも僕はいいよ」 「そういうことは涙が止まってから言ってね」 笑顔の中に秘めた鋭い刃に反論することが出来ず口を噤む。 「下手なことして後で辛くなるのは君なんだよ」 だから、今はこれで我慢しろとばかりに白蘭はまた頭を撫でてきた。 その手のひらから伝わる温かさはとても心地がよくて。 体を重ねることよりもこの方がずっと自分が癒されることを自覚している以上、白蘭の言うことは正しいのだと思わずにはいられない。 彼はどこまでも俯瞰で物事を見ている。 かつて、それに耐え切れずに暴走した者とは思えないほどに今はその位置を自然のものとしている。 そんな彼だからこそ「特別」という意味の重さをよく理解しているのだろう。 その上で彼は言う。 「きっとね。そういう運命にあるのなら。いつか君からしてくれるって思ってるよ」 その時は迷わず受け止めるからと。 辛さ以外のもので目頭が熱くなるなんてことを初めて知った瞬間だった。 |