|
視界に入ってきた光景に目の前が真っ赤になった。 すぐに動き出さなければならない状況であるのに体が怒りで固まってしまう。 脳内で何かが沸騰しているかのような感覚。 いっそ広がった色が白や黒であったならそのまま意識を逃避させることも出来たかもしれない。 けれど、確実に色を持ったそれは己に狂気すら呼び起こさせた。 「ディーノ」 すぐ隣にいたリボーンの言葉が耳に入ってきたのは奇跡だったと思う。 凶悪な元家庭教師らしからぬ声色に途切れかけた理性の糸をなんとか保つことができた。 「大丈夫だ。……が」 「ああ、それはオレも同じだ」 許しちゃおけない。 それは部屋に突入した直後から動き出している仲間達も同じようだった。 普段ならなるべく穏便にすませようと考える筈の綱吉ですら完全にキレている。 「こいつらはやっちゃならねぇことをした」 冷酷に響いたリボーンの言葉に。 その場に居たもの達は絶望以外感じられなかっただろう。 その日、一つのファミリーが壊滅した。 麻薬取引を主体としていた彼らとボンゴレが敵対したという話は一時話題の噂になっていた。 そもそも麻薬に手を出しているファミリーは多い。 その中でのシマ争いやルートの争奪による抗争は絶えることはない。 だがしかし、そうではない形での抗争が起きた。 ボンゴレは麻薬取引に関わらない。 某ヒットマンに言わせればいいもんなマフィアということらしいのだが、ようするにそんなものに頼る必要がないだけの力があるということだろう。 そんなボンゴレと件のファミリーの抗争の発端はボンゴレの同盟ファミリーにあったとかないとか。 ボンゴレと同様麻薬には手を出さない……むしろ、嫌悪すら示していたファミリーのシマの中で麻薬を広めようとした。 それだけならばそのファミリーとの抗争になったのだろうが、その最中でどんな流れかボンゴレの逆鱗に触れる何かが起こったらしい。 その結果、ボンゴレと同盟第三勢力両方から叩かれ、当然のように壊滅。 酷い有様だったという話だが、それでいてヴァリアーが出ていなかったというのは人々を驚かせた。 あくまで噂であり真実はわからない。 けれども、マフィアにあって珍しいほどに穏健派なその二つが過剰とも思える制裁を加えた真実を追求するものは誰も居なかった。 それほどにあの事件からのボンゴレ及び同盟内の空気はピリピリとしていた。 唯一つ言えたのは。 あの二つを同時に怒らせるのはタブーであるということだった。 「リボーン」 廊下の角から現れた小柄な姿に声をかける。 どうにも落ち着かなくて廊下をウロウロしていたのを理解してか、小さな黒ずくめは苦笑して見せた。 「うざってぇぞ、ディーノ。部屋で待ってろっつっただろ」 「悪ぃ。じっとしていられなくて」 むしろ、一度離れただけでも誉めて欲しい。 本当ならば傍についていたかった。 「で、どうなんだ?」 「…………どうひっくり返しても良いとは言えねぇな」 めったに聞くことのないような痛々しい声。 彼にそんな声を出させるということだけでも事態の重さがわかる。 「くそっ! あいつら……」 「気持ちはわかるがな。すでに少々やりすぎてんだ。我慢しろ」 苛立ちを隠しきれずに壁を殴りつけるディーノの背中をリボーンは諭すように叩いた。 放っておいたら残党狩りすらしかねない今の状態はとても危険だ。 「確かにあいつらはちょっと力をつけて幅利かせられて、たまたま雲一人抑えたくらいでいい気になってた」 「奴ら」はボンゴレとキャバッローネに牙をむいた。 噂ではキャバッローネのシマに手を出しただけになっているが、実は密かにボンゴレにも手を出していたのだ。 麻薬を扱っていないシマだから上手くいけばボロ儲け出来るとでも思ったか。 もしかしたら、それをきっかけに切り崩しにかかろうともしていたのかもしれない。 今のマフィアの勢力図から考えれば無謀とも言える行動。 それだけの過信があった。 「ツナがボスになって間もないってのもあったんだろうが……オレ達が組めばあそこを壊滅させるなんてわけねぇ。むしろどっちか一つでもお釣りがくるくれぇだったんだけどな。まあ、それをわからせる必要は充分にあった。なおかつ」 その「雲」に危害を加えたとなれば。 多少やりすぎになっても仕方のないことといえよう。 ……多少、ならば。 「オレも止めなかったが、お前とツナは暴れすぎだ」 「だって……」 綱吉は仲間を酷く大切にする人間だ。 それは、ディーノも同じ。 その相手がかわいい愛弟子とあってはなおさら。 「加減なんてできるかっ! あいつが……あの、恭弥が」 今でもあの光景が目に焼きついて離れない。 そこに捕らえられていることは把握していた。 捕らえられてからの時間を考えれば完全に無事だとは思っていなかった。 それでも、一秒でも早く助け出したくて過剰すぎる戦力をもってして踏み入った、あそこで。 「…………っ!!」 思い出すだけで息が詰まる。 「忘れろ」 「…………忘れられるか」 「忘れてやれ」 「……」 言い方一つで言葉を失った。 雲雀の気持ちになれといわれたら何も言えなくなる。 当の本人にしてみたらあの状況が誰かの記憶に残っているだけでもとんでもない苦痛だろう。 「今はとにかく先のことだ。どうにかしてやらないと」 リボーンの言葉が重く響く。 「どうにか……できるのか?」 「方法はある、らしい」 リボーンの濁した物言いにディーノは眉をひそめた。 「何か問題でも?」 「大ありだな」 ここでは難だとリボーンが先を促す。 それに黙って従ってディーノは足を踏み出した。 |