リボーンから告げられたのは確かに問題のありすぎる事実だった。

「6回の禁断症状を抜けた後に10倍に薄めたブツをゼリーに混ぜて使う。それを繰り返しながら最終的にはゼリーだけにすればいいらしい」

捕らえた者達から聞き出した禁断症状の治め方。
誰に聞いても、どう聞いてもそう言っていたので方法に間違いはないだろう。
それであの苦しみから解放させてやることができるならやるに越したことはない。

だが、問題は二つ。

「使う」の意味と「誰が使うか」だ。

「それで禁断症状は抑えられる。だが、治療の弊害として脳にその相手だけにしか反応しないって刷り込まれちまうって話だ」

これは困った問題だと肩を竦めたリボーンに、ディーノは頬を引きつらせる事しかできなかった。







ディーノ達が間に合わなかった結果。
雲雀は麻薬中毒者にされていた。

しかも、その方法がひどく。
彼は体内に直接麻薬入りのゼリーを塗りこむことでそれを摂取させられていた。
その方法の特徴としてそれを行った者に刺激を持って塗りこまれないと耐え難い衝動に襲われる。

彼の恐るべき精神力を持ってしても押さえ込めるものではないそれに悶え苦しむ姿。
その様子に愉悦を感じていた男はあの日乗り込んできたディーノに地獄送りにされた。








「それは、最初に使った奴じゃないとダメなのか?」
「最初に10倍に薄めて使ったときに切り替わるらしい。だから、やるにしてもとりあえず今から誰か決めるって話だな」
「そうか」

それを聞いて少し安心した。
あの屑野郎が必要だと言われたらどうしようかと思った。

「有無を言わさず葬ったからな、お前」
「うっ! だってさ……」

あの場面で堪えられるわけがない。

「オレもツナも堪えたぞ」
「や、オレがお前らよりちょっと早かっただけだろ」

そう思いたい。

揶揄するようなリボーンの視線に苦々しい顔になってしまうのを止められない。
だって、相手はあの雲雀なのだ。
初めての弟子で、手が物凄くかかっただけに情がわいて。
彼は彼でどうしても自分を負かしたいらしくいつまでも戦いを求めてくるから、ついそれを構いつけて。
出会ってから五年経った今、ファミリーとはまた別に自分にとってとても大切な存在になっていた。
そんな彼があれほど酷い目に遭わされたのを目の当たりにして。
どうして平静でいられよう。

「ずっと稽古つけてたなら、ああいういやらしいタイプの奴の対処方法教えておけばよかっただろうに」
「教えたさ! 一番危険だと思ったから口がすっぱくなるくらい気をつけろって言ってた」

単純に戦闘だけなら雲雀はそう負けることはないだろう。
どんな相手だろうと、何人固まっていようと一人で突っ込んで行くのには冷や冷やするが、それでも純粋な戦いなら彼は切り抜けてしまう。
それを裏付けるだけの強さを身に着けているのは確かだったし、ああ見えて意外と己の限界をしっかり見据えていた。

だがしかし、彼はまっすぐ過ぎて。
戦闘以外の部分での駆け引きや老獪で汚いやり方には疎い部分があった。

今回のことは正にそれで。
象すら動けなくなる毒でも動く……という情報を手に入れたらしい件の輩に遠慮なしでの薬物・毒物による罠攻撃をくらったのだ。
おそらく常人ならそこで死んでいる。

あげくの麻薬使用。
そのやりように腸が煮えくり返る。

やはり滅しても滅し足りない。

「多少のことならゴリ押せるし、勘は鋭いからな。それまでなんとかなってたから油断はあったんだろう」

ボンゴレとキャバッローネ。
どちらにとっても敵となりうる相手に雲雀は嬉々として向かっていってしまったのだ。

そもそもの目的が自分にもあるとは知らずに。

「正直なところ、あそこなら雲雀が潰しちまうならそれでもいいかなんて思った部分があったのはオレ達の落ち度だな」

後悔先に立たずとばかりにリボーンが帽子で表情を隠す。

雲雀が勝手に動いて組織を潰すなどということが当たり前になりつつあったのはよくないことだった。
おかげで出遅れた。

「それに関しちゃこっちも同じだ。あの時点じゃ、踏み切るにも材料が足りなかったしな」

さすがに「疑いがある」だけで抗争に持ち込めるわけがない。

「まあ、なんにしても」
「今更色々言っても始まらねぇな」

わかっている。
これは愚痴だ。

「さて、たっぷり後悔したとこでそろそろ生産的な話をするぞ」

くぃっと帽子のつばを持ち上げたリボーンの表情はいつものものに戻っていて、その切り替えの早さにディーノは舌を巻く。

「でもよ、リボーン。ホントにどうすんだ?」
「ん? お前、わかってねぇのか?」
「は?」

リボーンの意図が読めず、つい抜けた声が出た。

「どういう意味だよ」
「どういうって……何のためにお前に説明したと思ってんだ」
「は?」

再度、間抜けな表情を晒す。

「いや、まて。ちょっと待て」
「お、ようやく理解したか」
「いやいやいやいやいや。それはダメだろう」
「なんでだ? 適任だろ?」
「や、オレの恭弥への気持ちはそういうんじゃないし」

やっと理解できた元家庭教師の思惑とは。
雲雀の治療をディーノに任せるというものだった。

確かに、ディーノは雲雀を大切に思っている。
とてもかわいいと思っている。

だが、それも弟子として、弟みたいな存在としての域を超えていないわけで。

「だいたい、恭弥がそんなこと許すわけがない」
「それに関しちゃ誰だって同じだ」
「ぐっ」

その通りだろう。
おそらく、誰がその任についたとしても雲雀からの苦情は免れない。

「正直、ツナには荷が重いし、他に引き受けてくれそうなんつったら山本くらいか?」

骸あたりは嫌がらせでやりそうだが、それこそそれが原因で雲雀が病みかねない。

「部下に任せるのもどうかと思うしな」
「そりゃ……な」

このまま断ったら先ほどの言葉からして山本に話が流れそうな雰囲気だ。
それはそれでなんというか、こう、すっきりしないものがディーノの胸に渦巻いた。

「ま、別に最後までやる必要もねぇっぽいから」
「そうなのか?」
「お前なら、最後までやらなくてもあんなくそ野郎がやるより刺激与えれやれんじゃね?」
「そーゆー問題なのか……」

要は自分じゃなければダメにさせればいいという話だ。

そーいう意味で。

「うー、それはそれで……」
「やりたきゃ、やればいいじゃねーか」
「お前なあぁぁぁぁぁぁっ!」

ニヤニヤとしながら身も蓋もないことをいうリボーンに頭が痛くなる。

「ま、なんにせよ。今、禁断症状4回目だったか? あいつも必死に頑張ってるから6回目までには結論出せよ」

そういい残して小さな黒ずくめはするりと部屋を出て行った。
一人残されたディーノは天井を仰ぎ見てゆっくりと息を吐き出す。

誰かに相談できることでもない。
結論は自分が出さなければならない。

「なんて、グダグダ言ってるけどさ」

思わず零れた独り言に苦笑する。





結論なんてもうすでに出ていた。





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