「まあ、断るわけねぇとは思ってたぜ」

引き受けることを告げた時のリボーンの表情は相も変わらず偉そうだった。
五年前から成長が始まったとは言え、結局はまだ六歳の外見でなんでもわかっていますみたいな顔をされると内心むかつくが、そんなことを口にしようものなら遠慮なく鉛玉をぶっ放してくるのはわかりきっている。
今日も今日とて苦情を飲み込んだディーノはしたり顔の元家庭教師に次を促した。

「それで……いつ……」
「5回目は終わったから、後1回だ。それもそう先の話じゃねえだろ」
「てことは、ここで待ってた方がいいくらいか」
「かもな」

これで六回目が来たときに離れていたら元も子もない。

「回数があるってことは出たり引っ込んだりするのか?」
「いや、色々とやって振り切らせてる」

禁断症状すら忘れるほどの刺激を与えることによって毎回乗り切らせているのだと口にしたリボーンからは苦渋しか感じられなかった。

「それって……」
「聞かねぇ方がいい」

碌な方法ではないのはわかった。

「くそっ!」

やり場の無い怒りに目の前のテーブルを拳で叩きつける。
いつもならそれを諌めるリボーンも心情がわかるからかなにも言わなかった。

どれだけ辛い思いをしているのだろうと考えると胸が苦しい。
怒りに任せて葬るのではなく、死ぬより辛い目にあわせてやればよかったかもなどと物騒なことまで考え出したときに、リボーンの携帯が震えた。

「……わかった」

電話の先の相手にそれだけ告げると通話をオフにする。
向けられた視線に、どんな内容だったのかがすぐに理解できた。

「6回目、来たぞ」
「じゃあ……」
「もう少しだけ待て。……今行ったらキレる」
「…………」

例の碌でもないことが行われているのだと暗に語っているリボーンに。
ディーノは歯を食いしばって激情を堪えた。










案内されたのは厳重にロックされたまるで収容所のような場所だった。

「……暴れますので」

気をつけてくださいと告げた医者から小さな容器を渡される。

「これが、そうなのか……」

雲雀を苛む悪魔の薬。
こんなものの為にと思うと握りつぶしたくもなるが、そうもいかない。

「それから、これも」

そう言って渡されたのは避妊具と同じような形をしたものだった。

「…………えっと」
「最後までなさるつもりなら絶対に使ってください。そうしないとあなたまで摂取してしまうことになりますから」
「あー、そうか……」

直接肌に触れたら自分までやられてしまう。
ディーノは多少麻薬に耐性があるとは言え、指くらいならともかく、性器は完全にアウトだろう。

「これって、入れる側が直に使ったらどうなんだ?」
「使用した相手にしか勃たなくなりますし、その相手と使わなければ禁断症状は収まりません」
「ワォ……」

思わず弟子の口癖が口をついて出た。

「薄めてあるとは言え、まだまだ効力は高いですので重々お気をつけください」
「わかった。……とりあえず、最後までするつもりはないけどな」

それで済むならその方がいい。

「じゃ、行ってくる」
「扉が閉まると同時に鍵が閉まりますので」
「りょーかい」

心配そうに送り出した医者はおそらく散々雲雀の被害にあったのだろう。
どこまでも怯えが見える目に苦笑しながらディーノは物々しい扉の向こうへと踏み入れた。

「…………誰?」

ベッドの上でシーツに包まった姿から漏れる掠れた弱々しい声。
これが本当に雲雀のものなのかと疑ってしまうほどのそれにディーノは顔を顰める。

「オレだよ」
「……跳ね……馬?」

そろりと言った表現が正しい動きでシーツの塊が動くとちらりと雲雀の顔が見えた。

「何しに来たの?」

ディーノの姿を確認すると少しだけいつもの強さを取り戻した瞳が睨んでくる。
それに肩を竦めて答えた。

「治療」

その一言にシーツと共にトンファーが飛んでくる。

「っと! 危ねぇだろ!!」
「帰れっ!」

予想通りの反応に苦笑しか浮かばない。
おそらく、方法は聞いているのだろう。
手負いの獣そのものの瞳を向けて威嚇してくる姿に優しく笑いかける。

「ちゃんと助けてやるから」
「必要ないっ!」
「自分じゃどうにもできねぇんだろ?」

シーツが無くなった今、雲雀の全身が見て取れた。
漆黒の着物ははだけて肌の殆どが見える。
おそらく自分で掻き毟ったであろう引っかき傷がそこら中についており、血の固まった痕がいくつもある。
首筋に見えるのは何かで縛られた痕だろうか。
まさかとは思うが、禁断症状を越えるために死ぬ間際に追い詰められたりもしたのか。

「なぁ、恭弥……」

手首や足首にもいろんな痕がある。
精神的にもとてつもないダメージを負ったのだろう。
目が落ち窪んで、頬もこけている。

「頼むから……治そう」

見て、いられなかった。

あまりにあまりな雲雀の姿に涙すら浮かんできてディーノは言い募る。

「それはそれでお前のプライドを傷つけるなんてわかってる。……わかってるけどこのままになんてしておけねぇよ」

こうまでして乗り越えなければならない禁断症状を続けていたら間違いなく死んでしまう。

「だから、な」
「……一人で何とかできる」
「出来てねぇから言ってる」

勢いがあったのは始めだけだった。
少し暴れただけでも辛いのか雲雀は体を重そうにしながらへたりこんでいる。
拒絶する瞳だけは相変わらずだったが、手を伸ばさないわけには行かなかった。

「やっ! 触ら……ない……で」

肩にそっと触れるとびくりと震える。
それはおそらく麻薬を摂取させられた時の記憶のせいだろう。

「ひどいことはしないから」

いくらそんなことを言っても気休めにしかならないのはわかっている。
けれども、少しでも彼の負担を減らしたくて。
触れる手も殊更に優しくした。

「や……だ……」
「怖かったら目を瞑っててもいい」
「……もっと……いや……」

触れるか触れないかまで近づけた顔の間で視線がぶつかる。
その目が必死に自分を映そうとしているのに気がついてディーノは微笑んだ。

「じゃあ、オレを見てて」

目蓋を閉じてしまうと嫌なものしか思い出せないのだろう。
それだったらディーノの方がいいと告げてくる瞳に少しだけ心が軽くなる。

雲雀はもう完全に抵抗することを諦めていた。
本当は自分でどうにもできないことはわかっていたのだろう。
そこで死を選ぶかディーノの手をとるかの選択で。
彼は後者を取った。

「……なにも……感じないんだけど」
「あー、やっぱりか……」

首元に唇を寄せてみたり、着物の隙間から手を差し込んでみたりしたのだが、雲雀の体は反応せず。
相手が限定されているのがありありとわかるのに苦々しい気持ちが胸に広がる。

「こっちは?」
「やっ!」

いきなりそこはどうかとも思ったが、元凶である後孔に指を伸ばすと雲雀の体が怯えたように竦められた。

「……きもち……わる……」

ひくひくと震えている内壁は何かを求めているようではあった。
けれども、雲雀が感じているのは言い様の無い嫌悪感だけのようで。

「ん……ちょっと、待ってな」

ならば仕方あるまいと医者に渡されていた容器からゼリーを押し出すと指に塗りつけた。

「これなら?」
「っっっ!!」

今度ははっきりと反応があった。
目を見開いた雲雀は衝動をやり過ごそうとしたのか息すら止めてしまう。

「息はしろ!」

慌てて呼吸を思い出させると少しだけ体の力が抜ける。

「う……ふ……ぅ……」

求めていたもののうち一つを与えられ、体が変化していく。
徐々に絡み付いてくる内壁に雲雀が感じ始めているのがわかった。

「大丈夫か?」
「……ん……きもちい……」
「うっ……」

とろんとした目をして快感を受け止める姿についゾクッとしてしまう。
薬のせいでこうなっているのはわかっているのだが、それでも自分が施しているものでこんな顔をされたら堪らない。

今まで雲雀に対してそんな気持ちを抱いたことなんて一度も無い。
だから、大丈夫だと思っていたのに。

想像以上だったその姿に、ディーノは興奮しそうになる己を叱咤した。

「ね……跳ね馬……もっと」

ねだられたのは刺激か薬か。
判断がつかなかったのでもう少しだけゼリーを付け足して、先ほどより強めに愛撫する。
すると、雲雀の体は悦んだように震えた。

「……ん、あ……あぁ、ぁ」

びくびくと痙攣しながらディーノの指を搾り取ろうかとでもするように締め付ける。
それにともなって前の屹立が顕著なものになっていくのに雲雀が完全に感じているのがわかってほっとした。

脳内のすり替えは成功したらしい。

直接薬を与えられている場所以外への愛撫にも反応を見せ始めた雲雀に確信する。

「恭弥……」
「ん……ん……」

耳元で囁くと縋るように腕を首の後ろに回された。
自分を求めるその姿に耐え切れなくなって深く口付ける。

「んんぅっ! ……ふ……」

口腔内を舌で侵略していく。
多少の荒々しさをもったそれを雲雀は必死で受け止めていた。

本当はこんなことはする必要が無い。
後ろへの指の刺激だけでなんとかなりそうであるのだから、治療と言うのならそれだけにするべきなのだろう。

けれども、ディーノはどうしても雲雀を愛したかった。

雲雀が背負った痛みは体だけのものではない。
下種な男に無理やり体を暴かれ心にも深い傷を負った。

同じ行為を与えなければいけない以上、せめて雲雀の中でこれが自分を傷つけるだけのものではないのだと理解できるようにさせてあげたい。

その種類は何であれディーノは雲雀を愛しく思っている。
手のひらに、唇に、その想いを乗せて重ねていく愛撫に。

雲雀の表情の中に安らぎが生まれていくのが嬉しかった。





BACK NEXT