雲雀の元を離れたディーノはくらくらとする頭を抱えつつ、リボーンの待つ部屋へと向かった。
少し休んでから行きたかったが、終わったらすぐに来いと言われたので仕方ない。
もっと優しさと言うものを感じさせてくれてもいい気がするのにとブツブツ言っているうちに目的の部屋の前に着いた。

「リボーン、居るか?」

ノックと共に声をかけると返事が返ってくる。
それを確認してディーノは扉を開けた。

「……おい、へなちょこ」
「なんでだよ!」

顔を見て第一声がそれか。
しっかりと役目を果たしてきたのに何故そんなことを言われなければならないのかわからずに、ディーノは恨みがましくリボーンを睨んだ。

「うるせぇぞ。そんな酷ぇ顔するくれぇならヤってこいよ」
「ゲホッ!」

容赦のないリボーンの物言いにディーノは思わず咽てしまう。

確かに自分は最後まですることはしなかった。
しかし、それは雲雀のためであって。

「ただでさえもあいつのプライド傷つけてんのに、そこまで出来るか!」
「お前としては犯りたかったんだろ?」
「そそそそそんなことはない!」

全く信憑性がないほど、どもってしまった。
案の定、リボーンは大げさな溜息を吐いて馬鹿な奴だと言い放つ。

「隠そうと言う気すら見えねぇな」
「……うぐぅ」
「いいじゃねぇか。どーせ、今後あいつにはお前だけなんだからよ」
「そ、それは……」

改めて言われると動揺した。

今回のことで雲雀の求める対象は完全にディーノに切り替わった。
今後、もう一度あの薬を使うことなど考えられない以上、彼にとっての性対象がディーノ以外になることはない。
薬が抜け切ってもそれだけは変わらない。

「……それって、対象がオレ限定ってだけで、そういう欲求が無くなるわけじゃないんだよな」
「おそらく、な。溜まってきてお前の夢でも見りゃアウトじゃねーか?」
「うわぁ、そーくるのか……」

なんだか突然居た堪れなくなってきた。

「ま、今後お前がどうする気か知らねーが。愛人くらいには思っておいてやれよ」

元々淡白な相手だ。
薬さえ抜け切ってしまえばそう頻繁にはないだろう。
それでも頼ってくるときはあるはずだから、それには答えてやれと言うのには当然と頷いた。

「そりゃ、そこで突き放すつもりなら最初から請け負わないさ」

彼がそうして自分を頼ってくれるのならば、拒否する理由は全く無い。

「てか、むしろ。頼ってくんのか、あいつ」
「それはわかんねぇな」

ディーノの疑問にリボーンも苦笑する。
限界まで堪える姿がありありと浮かんだのはディーノだけではなかったようだ。

「まあ、なんにせよ。そんな状態なんだから、今我慢したって時間の問題じゃねぇのか?」

話を元に戻したリボーンにディーノはそれでもと眉を寄せた。

「もっと薬が抜けてきて。ちゃんとあいつの意思で選択できるようになるまでは……」
「とかなんとかいいながら、理由つけていつまでも逃げ回りそうだけどな」
「うるせぇよ」

逃げと言われて否定することができなくて、反抗の意思だけ示す。
そんな内心なんてバレバレなのがわかるように鼻で笑われたのに悔しさを感じた。

雲雀のためと言いながら。
結局は自分のためなのだ。

大丈夫だと思っていた。
雲雀のことは愛しいと感じてはいるが、決してそういった対象ではないと信じていた。
だから、おそらく彼が冷静であったら望むような処置的な関係を築いていけると。
そう、思っていた。

しかし、それは間違っていた。

いざ、彼に触れてみて。
乱れる姿や甘い声を知ってしまって。

湧き上がったのはどうしようもない欲望。

思っていたよりも色めいていた姿に、本能的に反応したのならまだ良かった。
ただ即物的に抱きたかったのなら抱いてしまっていたかもしれない。

でも、そうではなく。

愛しかった。
彼を安心させるためだけでなく、自分の意思で愛したいと思ってしまった。

愛しさを感じる欲望。
人はそれをなんと呼ぶのか。

「……オレはさ、リボーン」
「ん?」
「ファミリーのボスなんだよ」
「ああ、そうだな」

ぽつりと呟いた言葉にリボーンは言いたいことをすぐに察してくれたらしい。

「まー、そこは折り合いつけろよ」
「お前、わかっててオレにやらせようとしたんだろ?」
「まぁな」

こうなることがわかっていて。
そこに問題が山積みなのもわかっていて。

「……お前なぁ……」
「でも、こうしなかったらこうしなかったで、うぜぇほど悩んだだろ?」
「うっ……」

他の誰かに任せてしまっても良かったのかと言われると言葉に詰まる。

「やり直しはきかなかった。……最善を選んだつもりだぜ、オレは」
「リボーン?」

ふと。
自分以外に向けられた重みがあったように感じたのは気のせいだろうか。

「とりあえず、オレの責任はここまでだ。あとはお前が頑張れよ」
「丸投げすんなよ!」

すぐにいつもの調子に戻ってしまったりボーンに確認することはできなかったが、先ほどの疑問はディーノの中で小さなしこりとなった。













「次がいつかはわからないんだよな?」
「そうですね……毎回状態は変わっていくわけですから、頻度が割り出せませんし」
「だんだん間はあいてくんだろ?」
「それは確かだと思います」

これからのスケジュールを考えるためにもと医者の下へ戻ったディーノは視界に入った扉にちらりと視線を送る。
今は落ち着いているのか暴れているような様子は感じられなかった。

「恭弥は……?」
「今は寝てます。……あの日から初めてまともに寝ましたよ」
「そうなのか……」

まともに睡眠すらとれていなかったとは。
あのまま放っておいたら本当に死んでしまっただろう。

「いや、しかし。一時はどうなることかと思いましたよ」
「ん?」

心底ほっとしたような声を出す医者に疑問を示す。
すると彼は苦笑を浮かべて答えた。

「あんな状態のボンゴレの幹部……しかも、守護者を任されて。助けられなかったら私が殺されるんじゃないかと」

身震いする姿から、もしかしたらリボーンあたりに本当に脅されていたかもしれないと感じる。

「本人は本人で。異常なほどに意志が強すぎるだけに意識が反れないから禁断症状振り切らせるのも大変で。それこそそこで一歩間違えたらまた殺されそうで」

それは自分もやりかねなかった……とは言わないでおく。

「治療方法がわかっても、あの人相手にそれが可能なのかと悩んでしまったりもしまして」
「あんたもそう思ったのか」
「ええ、そりゃもう。実際、そんなことするくらいなら死ぬくらいなこと言われましたしね」
「……マジか」

先ほど必要以上に心配していたのもそれがあってのことだったか。

「それでも、ちゃんとなんとかなった。……ああいう人にも居るんですね」
「なにが?」

ふわりと優しい表情になった医者に首をかしげる。
それに彼は穏やかな笑みを見せた。

「心許せる人が……です」
「っ!」

他人に言われるとまた衝撃だった。
自分が雲雀にとって特別なのだと言われるとどうにも落ち着かない気持ちになる。

「ん……あ、えーと。こ、今後のことだけど」
「はい」
「しばらくイタリアを離れないようにはするから」
「わかりました。随時報告はしますので」
「頼む」
「任せてください。ここまで来たら私も迷わず頑張れますし」

動揺を隠し切れないディーノに医者は笑いながら答える。

「早くヒバリさんを救ってあげましょうね」
「そうだな」

自分の中にある問題はさておき、まずは雲雀の体を正常な状態に戻してやらなければ。
全てはそれからだと下手な迷いはしないように心に誓った。





BACK NEXT