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二度目、三度目は思ったよりも早かった。 医者曰く、一度目を越えたら若干の余裕が出たのか、最初は難点だった雲雀の意志の強さがいい方向に回るようになったらしい。 自らの意志を持って禁断症状を振り切ろうと出来るので回転が速い。 そうすることによって自然と時間が短縮される。 禁断症状と禁断症状の間が長くなってはいるので少しずつ期間は長くなったが、それでも予想よりは遥かに早いペースだった。 そして、四度目ともなれば雲雀も心得たもので。 「遅い」 すっかりディーノとの行為を必要なものと受け止めた雲雀は到着までに掛かった時間を踏ん反り返りながら詰った。 「……これでも超特急で来たんだけどな」 外せない会合があって。 それが終わってから直行で飛んできたと言うのに。 「まあ、別にいいんだけどね。もう禁断症状とか言ってもさほど辛くないし」 「そうなのか?」 六回が七回になっても別に構いはしないと言い放つ雲雀に、手を差し伸べながらディーノは問いかける。 その手に頬を摺り寄せると雲雀は淡々とした口調でとんでもないことを言った。 「もう別に薬が欲しいんじゃなくて、あなたが欲しいんじゃないかってくらい」 だから、堪えられなくもないし、吹っ切るのもそんなに大変ではない……と。 「……吹っ切れるもんか?」 「それなりにはね」 でも、欲しいことには変わりはないと擦り寄っていた手をぺろりと舐めた。 「……っ」 背筋をぞくぞくと這い上がる痺れに、自分が刺激されてどうするとディーノは顔を顰める。 「恭弥」 囁いて顔を寄せると雲雀の瞳が目蓋に隠された。 そのまま唇を触れ合わせると自然なことのように口付けを深めていく。 「……ん……ふ……」 合間に漏れるくぐもった声と唾液の絡まる濡れた音が響く。 薄く目を開けると見える目元を赤くして必死でディーノの舌を受け止める雲雀の姿はひどく扇情的で。 覚えのある頭痛がディーノを襲った。 触れた瞬間からこれかと顔が歪む。 その変化に気がついたのか、雲雀が少しだけ体を離すと首をかしげた。 「どうしたの? 疲れてる……?」 ならば、今日でなくてもいいと告げてくる瞳に誤魔化すように微笑んだ。 「大丈夫だよ」 心遣いが苦しい。 なんでもない顔をするのが辛い。 雲雀に触れる度に強くなっていく己の感情に焼き殺されそうだと感じていた。 ディーノは未だ雲雀と体を繋げることはしていない。 二度目の時はともかく、三度目は雲雀にもそれなりに正常な意識があった。 その上で彼は何の抵抗も無くディーノに触れられることを受け入れていた。 リボーンの言う通りだった。 結局は選択を迫れそうなその時が来ても問いかけることすら出来ず。 現状を維持しようと逃げ回っている。 しかし、雲雀との身体的な距離感を保っていても、心は全く保てなかった。 触れれば触れるほど彼が欲しくなった。 乱れる姿に、自分を求める姿に何度理性を飛ばしかけたことか。 それを無理矢理抑え込むことによって襲ってくるようになった頭痛。 多少の痛みならば表情に出すことなどありえない自分が耐え切れなくなりそうなほどの痛みと戦いながら触れる姿は、彼にどう映っているのだろう。 「……跳ね馬?」 「ああ、悪い」 大丈夫だと言っておきながら、あまりにぞんざいな動きだったことに気がついて謝る。 それに雲雀はふいと顔を背けた。 「ねえ、嫌なら別にもういいんだよ?」 「……嫌なわけじゃない」 やはりそう捉えていたかと胸が痛む。 無理もない。 前回も最後には眉間の皺を隠すことも出来ないくらいになっていた。 苦痛に耐えていることだけは明白で。 ディーノの内心など知る由もない雲雀にはこの行為自体を嫌悪しているようにも見えるだろう。 「じゃあ……なんで……っ! ん……」 問われたくなくて性急に手を動かし始める。 「いいんだ。そんなこと気にしなくて」 それに触れずにおくことが自分にとっても雲雀にとってもいいことなのだと。 言い聞かせるようにしながら雲雀の肌に手を這わせていると、ぐっと肩を掴まれた。 力を入れることによって出来た僅かな距離により、雲雀の表情が伺える。 伏せ目がちの眼からは憂いが感じられて、その意味を量りかねたディーノは動きを完全に止めてしまった。 「……恭弥……?」 雲雀も何も言わないまま数秒が過ぎ、何とか動いた口だけを頼りに問いかけることに成功する。 すると雲雀はゆっくりと顔を上げた。 「あなたは後悔してないの?」 薬の抜けてきた為に冷静な思考が戻ってきて。 ディーノだけしか求められないという事実が、雲雀だけでなくディーノへの負担でもあることに気がついた。 その自覚があるからこそ、ディーノが苦しそうな顔をするのが気になる。 それは当然のことではないのかと視線は語っていた。 「……そうか。そうだよな。気にするなって方が無理だよな」 どれだけ自分のことだけしか考えられなくなっていたのだろう。 彼を癒すことが第一だと考えていたはずなのに。 「ごめん。勝手なこと言ってた」 「別に……謝られることだとは思ってないよ。ただ、知りたいんだ」 後悔しているのかどうかを。 「あなたの負担だっていうのなら、僕は薬さえ抜け切ってしまえばもういいよ」 おそらく、今回を除いてあと一度か二度で治まるだろうと医者にも言われている。 そこまでは付き合ってもらいたいが、それ以上は望まない。 「元々、そういうの必要じゃなかったし。……だからっ!?」 淡々と話を進めていく雲雀に耐え切れなかったようにディーノがその体を抱きしめる。 突然の行為に雲雀は目を丸くしながら己に抱きついてきた相手を見つめた。 「……跳ね馬?」 問いかけてくる姿にディーノは吐き出すように叫ぶ。 「負担じゃない! 後悔なんてしてない!」 だから、自分から離れていこうとなんてしないでくれ……とは言えなかった。 ただその想いは腕の力にだけは溢れ出て。 雲雀は苦しそうに顔を歪める。 「ちょっと……」 「あ、悪ぃ」 呻くような声に状態に気がついたディーノは慌てて腕の力を緩めた。 そうして一呼吸おくと、己の中の冷静さを掻き集めるようにしながら雲雀を見つめる。 「オレはこの役目を引き受けなければよかったなんて思ったこと一度もない」 自分の手で雲雀を救えたのはとても嬉しいことだし、それを受けとめてもらえたのも嬉しい。 更に言えば、雲雀に触れることを嫌だと思ったことなんて皆無だ。 伝える言葉に嘘は一つもなかったからか、雲雀は疑うような素振りを見せなかった。 その代わり怪訝そうな顔を見せる。 「じゃあ、なんであんな顔するの?」 そこだけはどうしても腑に落ちない。 雲雀にそう言わしめるだけの様子を見せていた自覚があるディーノは苦々しく笑うと半分だけ本当のことを伝えることにした。 「……そりゃ……オレも男だしな?」 遠まわしな物言いに雲雀は僅かに間を空けた後に理解したような顔をする。 「したかったの?」 「まあ、触れてて嫌じゃない相手にあんなことしてりゃ、こう……な」 あくまで本能的な男の部分でという形で話を進めると雲雀は納得したようだった。 「してもよかったのに」 「……っ!」 さらっと言う雲雀に衝撃を隠しきれずに喉の奥を詰まらせる。 言いそうな気はしてはいたが、まさかこんなに簡単に言われるとは。 「……って、お前、それこそ嫌なんじゃねぇのかよ」 動揺を悟られる前に問い返すと雲雀は少しだけ考えるような素振りを見せて答えた。 「別に。今更だし」 「今更って……最後までっつったら、やっぱ違うもんだろ?」 それこそトラウマになっている部分があったとしてもおかしくないだろうと指摘すると、雲雀はまた少しだけ視線を遠くへやる。 「……あなたは自分があれと同じだと思ってるの?」 「それは……」 問われて頷けるわけがない。 「同じだったら僕はとっくの昔に死を選んでるよ」 ふわりと戻ってきた視線はとても柔らかくて。 自分が伝えたかった気持ちはしっかりと伝わっていたのだと感じて思わず涙ぐみそうになった。 「それで、あなたは何を迷うの?」 感動していたところに重ねられる鋭い問い。 退路を殆ど絶たれた状態にディーノは瞬時に脳内をフル活動させる。 「あ、いや……それはだな」 今はいろんな意味でまだ想いを告げられる段階ではない。 だからといって、今雲雀が納得している形で体を重ねてしまうわけにもいかない。 後々、自分が暴走して目も当てられない状態になるのが目蓋の裏にありありと浮かぶ。 「ほら、あれだ。そもそもオレのためなわけじゃないし。お前がしたいっていうならそりゃするけどそういうわけじゃないだろ?」 苦しい。 苦しすぎる言い訳な自覚はある。 それでもなんとかコレで乗り切れないかと祈るディーノに雲雀はふむと唸った。 「……僕としては特別必要もないけど」 「だろ?」 期待通りの答えに内心拳を握り締める。 しかし、ほっとした笑顔を浮かべたディーノは次の瞬間また固まることとなった。 「僕は今のままでも充分に気持ちいいし、満たされるけど。与えられるだけってのも癪だよね」 元々雲雀は借りを作るのが嫌いな人間だ。 返せる方法があるらしいことに反応してしまったのは非常にまずい。 それに加えて。 「み、満たされるって……」 「うん、だから、あなたに触れられるの好きだよ?」 「好っ……!」 爆弾を落としまくられて身悶えするディーノ。 その日、その後、どうやって雲雀を納得させていつも通りにことを済ませられたのかわからぬままにディーノは四度目の試練を乗り越えたのだった。 |