「おい、へなちょこ」
「だから、開口一番それはやめろっつってんだろ!」

久々に顔を合わせた元家庭教師にディーノは頭を抱える。
ボンゴレのイタリア本部に呼び出された時点で何を言われるかは把握していたが、相変わらず出だしから容赦がないのに泣けてきた。

「へなちょこをへなちょこっつってなにが悪ぃ。お前、ヒバリがいいっつってんのにまだ逃げ回ってるんだってな」
「……誰に聞いたんだよ」
「ヒバリだ」
「ぐっ!」

本人から聞いたとあっては何の言い訳も出来ない。
というよりも、雲雀がリボーンに素直に話してしまったことが衝撃過ぎて言葉が見つからない。

「いっつまでぐだぐだ悩んでやがるんだ」
「……だってよぅ」
「だってじゃねぇ。ガキか。いい加減腹くくりやがれ」

割り切らなければならないと思うのならば割り切れ。
それができないのならば、覚悟を決めて想いを告げるか、手放すかしろ。
全てにおいて中途半端な状態でいることがどれだけ雲雀を困惑させているのかわかっているのかと。

口の悪さもガラの悪さも性格の悪さも全開にしたリボーンに小一時間説教されてディーノはぐぅの音も出ないほどに打ちのめされる。

「……うぅぅ。わかってるよ……」

なんとか搾り出した声で答えると、目の前のつぶらな瞳がその形に似合わぬ冷たい光を湛えた。

「とは、思えねぇけどな」
「んなことねぇって。ちゃんと考えてる」

雲雀は言っていた。
おそらくあと一度か二度で薬は抜けきると。

「だから、次には……決めるさ」

己の身の振り方を。

「ふーん。……で、どうするつもりなんだ?」
「そ、それは……」

ここで見逃してくれる相手だとは思っていなかった。
それでも突っ込まれると尻込みしてしまうが、答えないわけにも行かない。

「……恭弥さ、オレに触れられるの好きって言ってくれたんだ」

気恥ずかしさを覚えながらもディーノがぽつりぽつりと話し出すと、リボーンは聞く体制を見せた。
余計なことは言わないと言いたげな姿に返事や相槌を待つことなく話し続ける。

「だから、少なくとも今後あいつを遠ざけるようなことは絶対にしない」

彼自身の意思でこの手を求めるというのならば。
それを振り払うような真似はしたくない。

「でも、やっぱり、まだ色んな覚悟は決まらないから」

想いを告げることはしない。

「最後までするかどうかは……アイツ次第かな」

彼が求めてきたのならばもう躊躇わない。

「……それでお前は大丈夫なのか?」

一通り言い終えたことを察したリボーンが問いかけてくるのにディーノは弱く笑う。

「大丈夫……とは言えねぇけどな。もう、顔や態度に出したりはしねぇさ」

彼が自分に好意を示してくれたこと。
それから、自分が行為に込めていた慈しみだけはちゃんと伝わっていたことを理解して。

今にも焼き切れそうだった己の中にある何かが少しだけ落ち着きを取り戻した。

「だから、なんとかなる……と思うんだけど」
「まあ、一応考えてはいるみてぇだな」

説教は必要なかったかと聞かれるのには肩を竦める。

「正直、んなこといってはいるけどちょっと自信ないから……怒られて良かったよ」

自分の中にまだ迷いが残っているのを鋭く察したからこそリボーンも口を出してきたのだろう。
こんな時、まだまだ自分はこの相手には敵わないと感じた。

「そう言えるようになっただけ、ちったぁ成長したか。ツナなんか、まだ文句ばかりだからな」
「ハハハ。それは仕方ないさ」

もうすぐ二十歳とは言え、まだ十代の人間には怒られるうちが華とは思えまい。

「なあ、リボーン」
「なんだ?」
「オレは……この手を伸ばしてもいいのかな」
「それはオレが答えるとこじゃねぇな」

向ける相手が違うだろうと言われるのに頷く。

「そうなんだけどな」
「少なくともお前に近い奴らは悪いこと言わねぇさ」

彼らはボスの幸せを第一に考えている。
これまで色んなものを犠牲にしてきたことを見てきているから尚更に。

けれども、そんな者達だけではないのは確かであるし、また信頼の置ける者達に大変な思いをさせることも目に見えている。

「……こればっかはホント決めきれねぇや」
「それでも腹心の奴らくらいには言っておいてもいいかもしれねぇがな」

万が一の為に。

「?」

妙な含みを見せたリボーンに眉を顰める。

「万が一って何だよ」
「世の中にはな、自分の頭の中で考えてるだけじゃどうにもならねぇことがあるんだよ」
「……だから」
「お前自身だって、いつ何のきっかけで自分が暴走するかもわかんねぇだろ?」
「まあ、そりゃ……」

何かどうにも違和感を感じてディーノはますます疑問の色を深めた。

「リボーン……お前、なんか気がついてる……?」

話が仮定に感じない。
言外にそう伝えるとリボーンはくいっと帽子のつばで表情を隠した。

「さて、オレは忙しい。またな、ディーノ」
「おい、リボーン!」

確実に何かを隠している素振りだけ見せて。
黒ずくめの元家庭教師は素早い動きで部屋から出て行ってしまった。

「なんだってんだ……」

ただ、少なくとも。
何かを覚悟しておいた方がいいのは間違いない。
彼がわざわざ自分に悟らせるような行動をとったからには何もないということはありえない。

「オレか……? それとも……」

雲雀に何かあるというのか。
そもそも雲雀から直接話を聞いているということだから、その可能性も充分にある。

自分が考えていたほど簡単には事が運ばなそうなのにディーノはまた苦悩を抱えてしまった。





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