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「ボース。珍しい客が来たぜ〜」 書斎の扉が叩かれる音と共に飛び込んでくる腹心の声。 それに書類の束から目を離すとディーノは扉の向こうに向かって問いかけた。 「誰だ?」 「きょーや」 「!!」 気の抜けた答えに対し、体中に緊張を走らせた体がガタンと大きな音を立てて椅子から飛び上がる。 その弾みで雪崩を起こした紙の束に、部屋の隅で書類の整理をしていたリコが絶望に満ちた表情をした。 「……ディーノ様……」 「悪い! リコ!! 後でちゃんと片付けるから」 そういいながら既に扉の前に立っていたディーノはちらりと振り返っただけでさっさと部屋を出てしまう。 扉が閉まる直前に聞こえた大きな溜息に、後で説教確定だなと思った。 「恭弥、どこ?」 「とりあえず、応接室に通しておいたぜ」 慌てた様子を隠そうともしないディーノにロマーリオが苦笑しながら答える。 いつだって傍に居るロマーリオにはディーノの気持ちなんて当然のようにバレている。 だからこそ、彼の前では素の自分を隠そうともしなかった。 けれども、これから会いにいく人にはそうも行かず。 応接室の扉を開けるまでになんとか気持ちを落ち着ける。 「よしっ!」 よくわからない気合を入れて扉を押し開く。 その先で優雅な仕草でソファに腰掛ける姿を確認したときにはその気合がどこかへ行ってしまいそうになったが、なんとか踏みとどまるといつもと変わらぬ笑顔を向けた。 「よお、恭弥。久しぶりだな。元気してたか?」 差し障りなく、極自然に。 内心の喜びを必死で押し隠しながら声をかけると、雲雀はゆっくりと振り向いて気のないような返事を返してくる。 「……元気……ではないかなぁ」 「どうした? 珍しい」 雲雀にいつもの覇気がない気がしてディーノは首をかしげた。 だいたいにして、雲雀がこうしてキャバッローネ邸にわざわざ足を運ぶなど、滅多にない話で。 「なにかあったのか?」 「んー……」 やはり、おかしい。 こんなにも大人しい雲雀など初めて見た。 「おい、恭弥……」 「眼鏡」 「え?」 「眼鏡してるね。仕事中だった?」 何があったのか聞き出そうとしたディーノは逆に問いかけられてしまい次の句を失う。 それでもなんとかその問いにだけは答えることができた。 「あ……ちょっと、事務的なことをな」 「邪魔したね」 すくっと立ち上がると雲雀は部屋を出て行こうとする。 その腕を慌てて掴むと少々荒めに引き寄せた。 「や、大丈夫。大丈夫だから!」 眼鏡を外す間も惜しんできたのは失敗だった。 今更悔やんでも仕方ないが、内心舌打ちをする。 「まだ余裕があるようなことしかしてなかったから」 「それでも仕事中には変わりないでしょ?」 「そうだけど」 こんな様子のおかしい雲雀をそのままにしておけるわけがない。 「そう! 休憩! ちょうど休憩したかったんだ」 「なに、その適当な理由」 「適当じゃねぇよ」 適当だった。 とにかくなんでもいいから雲雀を引き止めたくて。 必死にここに居る理由を考える。 「これでお前が帰っちまったらオレ休めねぇよ」 「僕が居ない方がゆっくりできるんじゃないの?」 「いやいや。そんなことはない。断じてない」 「……はぁ。もう、本当にあなたって」 馬鹿だよね。 そう言って僅かに綻ばせた口元がとても可愛くて、ディーノはつい手の力を弱めてしまった。 「あ!」 その隙を逃す筈のない雲雀はそのままするりとディーノから離れると素早い動きで扉の向こうへ行ってしまう。 「お、おい。恭弥……」 「しばらく、こっちには居るから。暇ができるようなら哲にでも伝えておいて」 それだけ告げるとさっさと廊下を進んでいく。 部屋の外までは慌てて追いかけたものの、こちらの予定さえ合えば話ができそうな物言いに、慌ててディーノは仕事に戻った。 キャバッローネ邸を後にした雲雀は近場のホテルに身を落ち着ける。 財団のイタリア支部に行ってもよかったが、あそこに行ってしまっては休暇の意味がなくなりそうだし、なによりまだキャバッローネの周辺を離れる気にはなれなかった。 「相変わらずだったな」 周りに他の誰かが居ればまだしも二人だけだとあんな様子を見せるのも珍しくはない。 あれで隠しているつもりなのだから笑えない。 「なんであんなに一生懸命になれるんだろう」 自分は一度だって……欠片だってそれに応えたことなどないのに。 京子のことにしてもそうだ。 彼女もまた、堪えながらも綱吉を想い続けていた。 本当に誰かを想うということはそういうことなのだろうか。 そうなれば、綱吉が帰ってこないことを知ってこの想いを諦めようと早々に決めてしまった自分はやはり薄情であるのか。 「なんだかよくわからなくなってきた」 結局は理解したつもりになっていただけなのかと独りごちる。 今、自分にわかるのは。 綱吉が自分の元を去ってどこか寂しいような苦しいような感覚と、ディーノが変わっていなかったことに対する安堵感だけ。 己の中に渦巻くものがどんどんわけのわからないことに思えてきて、雲雀は苦しそうに眉を顰めた。 |