草壁から入った連絡によるとディーノはかなり切羽詰った様子だったらしい。
大慌てで捻じ込んだと思われる休暇を告げて、会いに行くでも来るでもいいからとにかく早く顔を見たいと言っていたと伝えられた。

なんとはなしに嫌な予感がした雲雀は全く返事を返さず、休暇の当日にキャバッローネ邸に訪れ、屋敷の主に盛大に不満を言われた。

「恭弥! なんで、返事くれなかったんだよ!」
「だって、あなた、うるさそうだった」

下手に連絡などしたらその場で会いたいなどと言い出しかねない気がしたのだ。
そして、それは正解だったらしくディーノは一瞬言葉を詰まらせる。

「あー、いや、それは……」
「ねえ、とりあえずどこか座るくらいさせてよ」
「おお、悪ぃ」

エントランスのど真ん中で話をする気はないと目で訴えると、ディーノはそれもそうだという顔を見せた。

「こっち」

そう言って招かれるのに素直に従う。
辿りついた先はディーノが個人で使っているという部屋だった。

ホテルの一室のようなそこは位置的にも造り的にも彼の本当の部屋でないことは明白で。

「人に色々言うわりに、あなたも大概仕事人間だよね」
「ははは」

いつ急な仕事が入ってもいいようになっているのを暗に指摘すると、ディーノは否定できないように笑った。
……そして、すぐにその笑みをしまいこむ。

「それで、そのオレ以上に仕事人間なお前が珍しく長めの休暇を取った理由なんだが」

先日あったときとは違う、疑問など全くなさそうな瞳に彼の耳にもあの話が入ったのだろうと察した。

「たぶん、僕から補足して言うことは何もないと思うよ」
「ツナから直接聞いたから……嘘だとは思ってなかったけどさ」

なんの感慨もなさそうに告げる雲雀に対してディーノの表情はとても痛々しい。
もっと喜ぶかと思っていた。
それなのに、むしろ自分が辛そうな顔をするディーノに雲雀は片眉を上げた。

「なんで、あなたがそんな顔するのさ」
「だって、そりゃ、お前……」

整った綺麗な顔がくしゃりと歪む。

「辛いだろ?」
「……別に。そうでもない」

先回りしてそんなことを言われたのについ意地を張ってしまった。
そもそもそれを彼に伝えたくてここまできたのではあるが、こんな顔をされてしまうとそれも憚られる気がする。
ぐるぐると回る思考に、もう自分でも何がしたいのかわからなくなっていた。

「やっぱ、帰る」
「え、なんで!?」

すっかり目的を見失ってしまった雲雀はくるりと踵を返す。
それを引き止めたディーノの行動は先日とは異なるものだった。

「待てって」

腕を掴むところまでは同じ。
けれども、その後に後ろから抱きすくめられたのは大きな違い。

「ちょっと、なにしてるの。離して」
「ダメ。離さない」

部下も居ないというのに振りほどけないほどの力で抱きしめてくるのに雲雀は眉を顰めた。

「ねえ、苦しい」
「力弱めたら逃げるだろ、お前」

図星だ。

成功しなかった計画にむすりとして、雲雀は抵抗を止める。

「……僕は、平気だよ」
「そんなわけあるか」
「平気だってば。……結局、僕の彼への想いなんてそんなもんだったんだよ」

頬や首に触れる長い髪がくすぐったいな……なんて、全然関係のないことを考えながら雲雀はポツリと呟いた。
この人はいつからこんなに髪を伸ばし始めたんだろうと考えたところで、抱きしめる腕に更に力が篭るのを感じる。

「ちょっと……本当に苦し……」
「あんまり馬鹿なこと言ってると怒るぞ」

耳元で発された声は、今まで聞いたこともないようなもので。
見えないとわかっていながら、表情を確認しようと顔を横に向けた。

「……跳ね馬?」

なぜ、この場面で彼が怒るのかがわからない。
その疑問を乗せた呼びかけにディーノは雲雀の体を一旦離すと、反転させてもう一度抱きしめた。

「お前が、あいつのことをどれだけ想ってて、大切にしてたかなんて嫌ってほどわかってるんだよ!」

心の底から搾り出すかのような叫び。
他の誰より……そう、もしかしたら綱吉よりもずっと雲雀を見つめ続けていた彼から発せられるそれは重く響いた。
彼の言葉を否定できる者など、きっと居ない。

「辛くないわけねぇだろ! 傷ついてないわけ……ねぇだろうが」

叫びはだんだんと嗚咽に変わって。
ぎゅうぎゅうと抱きしめてきながら泣き出したディーノになぜか胸の奥が熱くなるような気がした。

「なんで……あなたが泣いてるの」
「お前が泣かないからだよ」

人の代わりに泣くなんて意味が分からないと思ったのに。
本当に自分が泣いているような気分になってきたのが不思議で。

「ねえ、跳ね馬」
「なんだ?」
「僕は彼のことちゃんと好きだったのかな」
「だから、そう言ってるじゃねぇか」
「辛いのは当たり前?」
「当たり前だ」
「……じゃあ、彼が戻ってこないのがわかってすぐに諦めたのは」
「諦めたんじゃなくて、理解して送り出したんだし、なによりあいつの幸せ願ってなんだろ?」

それだって充分すぎる愛情の形だと。

いつの間にか束縛がとれていて、雲雀を見つめながらディーノは一つ一つの問いに答えてくれる。
そんな彼が最後の言葉と共に笑顔を見せてくれたのに。

雲雀の目から一筋の涙が零れた。

「うん、泣いとけ泣いとけ。辛いの我慢するのはよくないぞ」
「泣いてない」

泣いていないけれど、彼の胸に顔を押し付ける。
そんな雲雀の頭を撫でるディーノの手は優しく、とても温かかった。

きっと、今、彼の想いを告げられたらそのまま受け入れてしまっただろう。

けれども、彼はそんなことをしようとする素振りすら見せず。
ただただ雲雀の哀しみを受け入れてくれていた。






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