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「オレは馬鹿か」 己の状態を鑑みてついそんな言葉が漏れる。 縋る雲雀を優しく撫で続けて、彼が落ち着くまでずっとそうしていた。 そして、ようやく顔を上げたのに食事でもどうかと誘って。 そのままここへ泊まっていくという話をつけて客室へと案内した。 驚くほどにその全てを素直に受け止めた雲雀に笑顔で就寝の挨拶を告げて、件の個室へ戻ったディーノはそのままベッドに倒れこむ。 今更ながらに胸の中がもやもやして仕方なかった。 「行くなら、今だろ、今」 まさか訪れるとは思わなかった彼へ想いを告げる瞬間。 それに最も適しているのは今しかないとわかってはいた。 弱みに付け入るようであるのが難だが、傷ついた彼を癒すにもありではないのかと感じる。 なにせ、この状況で他ならぬ自分を頼ってきてくれたのだ。 自分が考えていた以上に、彼にとって自分は近しい存在であったのだと思うのは単なる勘違いではないはずだ。 なのに、その一歩が踏み出せない。 今日は終始、兄か……下手をすれば親かのような態度で接してしまった。 信じられないくらい素直な雲雀にときめく場面も多々だったが、下心はひた隠しにして。 それでも時折疑問を投げつけるかのような視線が送られていたのには気がついていた。 「あれは、きっともう気がついてるよな〜」 そんな発言をした自覚はある。 その後の態度はともかくあんなずっと見てましたとしか取れない台詞を彼が聞き逃すはずがない。 だがしかし、彼が自分の想いに気がついているとしても。 それを受け入れてくれるかどうかというのはまた別の話であって。 それこそ、そんな風に思っていなかったからこそここへ来てくれたのかもしれないし、弱っているところを狙うのは卑怯だと言われたらぐぅの音も出ない。 「あああぁぁ、どうしよう」 実はとうの昔に自分の気持ちなんてバレバレだったなどと考えもしないディーノは頭を抱えてベッドの上を転がる。 「これで落ち着いてっからなんて言ってたら、あいつ寄り付きもしなくなるかもしれねぇしな……」 元より群れることを何より嫌っていた人だ。 独りに慣れてしまえばまた周りを煩わしく思い始める可能性は高い。 どうしたものかと思考の海に溺れながら、いい大人がまるで思春期の少年のようにもじもじごろごろし続けた。 「本当にへなちょこだよね」 ディーノが扉の向こうへと消えての第一声。 なんだか馬鹿らしくなってきて、大股に移動するとどかりとソファに腰を下ろした。 「別に、元々期待なんてしてなかったんだけどさ」 自分の体重を心地よく受け止めてくれる感触に流石にいいものを揃えていると感じる。 その感触にぐりぐりと身を押し付けながら雲雀は重く長い溜息を吐いた。 少しでも長く引きとめようとしては来るくせに、それ以上は何も言ってこない。 ただ雲雀を癒そうとだけしてくれているのだと考えれば好感も持てなくはないが、それだけではないのはわかっていた。 「人のことにはあんな偉そうに言うくせに」 どこへいったらいいかわからなくなっていた気持ちをはっきりさせてくれたのは彼だ。 おかげで随分とすっきりしたし、これで改めて気持ちの整理も出来そうだと思った。 あの時の彼の様子は好ましいと感じた。 ……なぜ、あのまま自分のことにシフトできないのか。 「どうせ、今頃ぐずぐず悩んでるんだろうな」 ありありと目に浮かぶ様子に苦笑しか浮かばない。 この期に及んでそんなに悩むくらいならとっくに諦めてればよかったのに。 むしろ、今からでも遅くない。 彼もこんな非生産的なことなどさっさとやめて、まともな道に戻ればいいのだ。 彼の想いだって、きっと本来あるべきものから捻じ曲げられているもののはず。 そうでなければならない。 世襲制のファミリーのボス。 ファミリーのために存在しているような人。 そもそもなぜ彼が自分なんかを追い続けているのかよくわからない。 こんな捻じれは早々に解消されるべきだった。 そうであるためにずっと彼の想いも、自分の秘めた想いも気づかない振りをしていたのに。 「それでもやっぱりどこかに隙があったのかな」 ふと骸のことを思い出した。 たとえ気がついていたのが彼一人だけだったとしても。 そこに至るための何かが自分から漏れていたのは確かな話で。 「それに気がつくほど鋭いとは思えないけどね」 何せ綱吉といい勝負の鈍感さだ。 人のこととなると驚くほど鋭かったりするのに、自分のことになるとてんで話にならないところは本当に良く似ている。 「……僕、ああいうタイプに弱いのか……」 気がつかなくていいところに気がついてしまって雲雀は眉を顰めた。 確かに綱吉に対する気持ちと彼に対する気持ちは違うものなのだが、好意としては同じものであって。 あの手のタイプに興味を持ちやすいということなのだろう。 「嫌になるな、もう」 もう、こりごりだ。 綱吉はまだ自分が気を使ってあげようという気にもなる相手だったからよかったが、ディーノは違う。 自分で何とかしろといいたくなるのは彼のが年上だからなのか、なんなのか。 だから、余計に遠慮したい気持ちがある。 なんにせよ、もう自ら動く気はしない。 純粋にただ自分だけを六年も想い続けてくれたというだけでも、手を伸ばす意味はあるのかもしれないが。 あんなに鈍感では捻じれがあったとしてもきっと気がつかない。 意識的に遠ざけ続けてきた。 だからこそ、六年経ったって彼の詳しいことなんて何も分からない。 その中で自分から手を伸ばすなんてできっこない。 「もう、いいんだ」 痛みは充分すぎるほど癒してもらった。 あとは独りでも生きていける。 「うん、そうだよね」 自分の中で一つの結論が出て。 雲雀は徐に立ち上がると部屋の外へと繋がる扉へと足を向けた。 |