すっかり日が落ちて街灯が灯った道を一人歩く。

知らず唇に手が伸びるのは何度目か。
柄にも無く少し浮かれているのかもしれない。

「抜け駆け……とは感心しませんね」

闇に潜んで声がする。
この世で一番嫌いとも言える声を聞いて雲雀は不機嫌を隠そうともせずに標的に向かってトンファーを振るった。

「っと、相変わらずな挨拶で」
「君とまともに話をする気なんてないからね」

闇に紛れようがなんだろうが、嫌いなだけに詳細にその場所がわかる相手に的確に殴りかかったつもりだったのだが、しっかりかわされ小さく舌打ちする。
本来ならこのまま咬み殺しにかかるのだが、今はこんな相手に構っていたくなかった。

「さっさと消えてよ。せっかくの気分が台無しだ」
「台無しで結構。一人だけいい目を見るなんてさせません」

バチリと火花が散りそうな程に睨みあう。

本当に腹立たしい。
あろうことか、この変態術士もディーノに懸想しているのだ。

雲雀が告白を急いでしまった理由はこんなところにもあった。
今はまだ鈍感なディーノは全く気がついてはいないが、たとえこの変態であろうとも自分に好意を持っているとわかれば甘い顔をしてしまう可能性がある。
基本的にお人好しな彼は人の好意を無碍にすることはしないと考えるのが妥当だ。

そこからどんな弾みで話が進むかもわからない。
それくらいだったらさっさと自分の存在を主張するべきなのだと感じた。

「そんな風に言うなら君も告白してみれば? きっと、やんわり振られるよ」
「自分がちょっと上手くいきそうだったからって調子に乗ってません?」
「少なくとも元々君よりは好かれてる自信あるよ」

一番最初のインパクトは大きいはずだし、手ごたえもあった。
そこから来る余裕で煽ってみると目に見えて相手がイラつくのがわかる。
イラつくということは相手もそう思っているということだろう。

「っていうか、盗み見しないでよ」

先程から聞いているとどう考えても見ていたとしか思えない口振りで腹が立つ。

「最近、君の様子が少しおかしかったから警戒してたんですよ」
「だからって見張るとか。どこまでデリカシーないんだよ」

もういい加減にこの胸糞悪い空気から解放されたい。
そう感じて雲雀はさっさと踵を返す。

「まだ話は終わってませんよ!」
「君と話をする気はないって言ってる」

と言いながらもだいぶ話してしまった気がするが。

「……とりあえず、沢田綱吉にも言っておきますね」
「ちょっと……」

聞き捨てなら無い台詞につい足が止まる。

「ついでに山本武にも。ああ、あとはヴァリアーにも流しますか?」
「面倒増やさないでよ」
「時間の問題ですよ」

雲雀が告白したことなんてすぐにわかると言われると反論は出来ない。
だが、わざわざ言う必要もあるまい。

「一蓮托生です!」
「……ホント、いい性格してるよね」

頭が痛い。

面倒ごとを一気に増やしてくれた馬鹿に雲雀は眉間を指で押さえて頭痛を堪えた。

本人にも言ったが、ディーノは妙にモテる。
女だけではなく男にも。
しかもいろんな意味で。

自分の知っている限りでも数名いるのだから、知らないところにはもっと居るのかもしれない。

それらは今までお互いに牽制しあっていた。
正確に言うと、鈍感で全く気がつかない相手にそれぞれ出方を伺っていたというか。

「これで皆動き出しますよ」

クフフとむかつく笑い声を漏らすのにもう一度トンファーを振ろうか悩む。

「先手を打って勝った気でいるのかもしれませんが、まだまだこれからです!」
「……とりあえず君が一番敵じゃないのは確かだけどね」
「どこまでも口が減らない人ですね」
「事実を言ったまでだよ」

視線の間で再び発される火花。

これ以上傍にいたら意に背いて闘い始めてしまいそうで雲雀はさっさと帰ってしまうことに決める。
今度こそ何を言われても振り返らないと決意して歩みだすと、それを察したのか声をかけられることなくその場を去ることが出来た。










家に帰り着き、さっさと布団に潜り込む。

ディーノはまだ数日は日本に滞在すると言っていた。
その間が大きな勝負の分かれ目となるだろう。

「パイナップルはともかくとして、沢田達は純粋にかわいがられてるからな」

これまでもディーノに対する好意自体は隠していなかったと言う意味では向こうのが優勢かもしれない。
けれど、意外性をついて印象を与えたと言う意味では自分の方が分がある気がする。

こういった感情は初めてのことで。
正直なところどうしたらいいのかわからない部分が多い。

この気持ちが恋だと気がついたの自体、実は結構最近のことだったりする。
実際にはもっとずっと前から惹かれていたのではあるが。

今日彼に触れてみてとても気分が高揚したし、嫌われてはいないと確信できたのは嬉しかった。
あとはそれをどう自分のいいように持って行くかだ。

「邪魔さえ入らなければそのまま上手く行きそうな気もしたんだけど」

あの変態パイナップルが……と毒吐いたものの、それに関しては本当に時間の問題だっただろう。

「……わからないものをいくら悩んでも仕方ないか」

自分に出来る限りで気持ちを伝えていけばいい。
今日だってそれで結果は悪くなかったのだから、あとは不都合がおきてから考えよう。

寝不足になって明日に差し支えてはまずいとそのまま寝入る準備に入る。
どんな明日が待っているか考えながら寝るなんて初めてのことだった。





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