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逃げられた。 その事実は雲雀を苛立たせた。 他の奴らを撒くのはいいが、自分まで同じ扱いをされたのが腹立たしい。 あとでこっそり連絡でもあればと思ったがそれもなく。 まだまだ押し足りないのが明らかなのに溜息を吐いてみたりもした。 わかっている。 この苛立ちは焦りだ。 柄にも無く不安になっていたりもする。 慣れない感情を持て余して不安定になっている自分を感じる。 彼を求める気持ちは確かなものだ。 それなのに、どうしたら手に入るのかもわからないし、いったいどんな形になれば正しく納得のいく形になるのかもわからない。 そもそも恋愛と言うものがよくわかっていないのに、同性間ともなれば尚更で。 特別に思ってもらいたいとか、触れ合いたいとかまでならばわかる。 事実、昨日抱きしめられた時や口付けた時の気持ちはとても幸福なものだった。 しかし、それ以上となると想像がつかない。 わからないまま突っ走っている自覚はあるのだが、ここで止まるわけにもいかず。 だからといって、わからないままでは間違えた押しようをしてしまう恐れもある。 闘いのようなゴリ押しが効かないのは自明の理だ。 むしろ、今回の場合はムカつく相手の得意とする狡猾さの方が有利だろう。 「面倒なことこの上ない」 思わず舌打すら鳴らしてしまう。 こんな忌々しい気持ちになりながらも退く気になれないのがまた苛立たしい。 これほどまでにやっかいな感情を植えつけられてしまったからにはぜひとも責任をとってもらいたい。 この件に関して彼に落ち度は無いと言われるかもしれないがそんなことはない。 あの存在が自分の目の前に現れたこと。 そして、必要以上に自分の領域に踏み込んできたことが悪い。 最初は自分だって抵抗したのだ。 自分の中の何かが変わってしまう予感がしたからなるべく距離を置くようにしていた。 それなのに無駄に近づいてくるだけでは飽き足らず、自分の気を引こうとあれやこれやとしてくる。 彼としては師として好かれたかったのだろうが、自分にとっては魅力的で仕方ない強さを小出しにしながら見せ付けてくるのも卑怯だと思った。 そんなこんなで結局距離を測れないまま。 気がついたらすっかり後に退けない状態になっていた。 だからこそ、もうこの気持ちを隠すことはしまいと決めたし、そう決めたからにはなんとしてでも手に入れようと考えている。 しかし、自分のペースでやるにもいまいち上手くいっていないような気がしてしまったのが確かで……。 「これじゃ駄目だ」 堂々巡りの思考に陥りそうになったのを悟り、一息吐いて考えるのをやめた。 「普段の自分の思考に戻そう」 逃げた獲物がいた場合、どうするか。 「追いかける」 そう簡単には逃がしはしない。 幸いにして彼の宿泊先はわかっている。 この状況下で彼の逃げる先なんてそこしかない。 わからないからといって止まっていては何も始まらない。 失敗を恐れるなどそれこそ自分らしくない。 そうと決まれば話は早く。 雲雀は愛車にひらりと跨ると並盛の町を疾走した。 単車は車より小回りが利く。 地元ならではの裏道を知っていることもあって、だいぶ先に出た筈のディーノより先にホテルについてしまった雲雀は彼の貸しきっている階層のホールで待ちの態勢に入った。 何かにつけてディーノの部下達とは顔を合わせている。 ディーノがどう自分のことを話しているかはわからないまでも、部下達の中での覚えは悪くないらしく。 主が不在の状態でも邪険にされないのはありがたかった。 雲雀が群れを嫌うのを理解している部下達が遠慮がちに行きかう中、エレベーターの動きをじっと見つめているとようやく待ち人が来たようなのがわかる。 ゆっくりとした足取りで扉の前に歩み寄るとちょうど目の前に来たところでそれは開いた。 「うわぁっ!!」 開口一番叫んだディーノに不快を隠そうともせずに睨みつける。 「ちょっと、その態度は失礼じゃない?」 驚いたと言うより、もはや怯えたと言ってもいい反応に多少なりとも傷ついた。 やはり、自分が思っていたほど上手くはいっていなかったのかと感じてしまい僅かに俯く。 そんな自分を飛び越えてディーノが誰かに声をかけた。 「なんでお前がいるんだよ!」 「え?」 明らかに自分にではなくかけられた言葉に振り返る。 そこには振り返らなければよかったと思ってしまうような存在がにこやかな笑顔を湛えて立っていた。 「消えて」 「二人ともひどいですね」 いつからそこに居たのか。 雲雀の数歩後ろに佇んでいたのは骸だった。 「何で気がつかなかったんだろう……」 「君が来るより前から居ましたからね。対策はばっちりです。キャバッローネの皆様はもうちょっと幻術に強くなった方がいいんじゃないかと思いますよ」 もっとも自分ほどの幻術士はそうそう居ないから仕方ないと思いますが……などとのたまう姿に、思わず手が出た。 「おっと」 「ちっ」 トンファーと三叉槍がぶつかり合う音に、ホールに居た部下達の視線が一気に集まる。 「ちょ、お前ら! こんなところでやりあうなっ!!」 慌てたディーノが二人の間に割り込むと雲雀も骸も仕方なしとばかりに武器を収めた。 ここで彼の不評を買うのは得策ではない。 「ああ、もう。ここで帰れっつっても素直に帰らねぇだろうし……。しょーがないから、ついてこい」 とりあえず争いはやめたものの、放っておいて大人しくしている二人ではないと判断したらしいディーノはガシガシと頭を掻きながら奥へと促してくる。 「ねえ、僕だけじゃ駄目なの?」 「君だけ帰るの間違いじゃないんですか?」 「だーかーら。そうなるから二人ともまとめてついてこいって言ってんだろ!」 どちらか片方だけ帰そうとしてこの場所が無事で済むわけがない。 だから頼むから大人しくついて来てくれと目で訴えてくるのに、物凄い不本意ながらも従うことにした。 |