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どうしてこうなった。 今回来日してからもう何度目になるかわからない我が全能なる父への問いかけもすっかりぞんざいなものになってしまった。 もはや投げやりにならざるを得ないような状態が続いているのだから仕方ない。 ホテルのインペリアルスイートのリビングで。 物凄い不穏で危険なオーラを出した弟子と、これまた別の意味で不穏なオーラを携えたその天敵が自分の両隣をキープして座っている。 テーブルの反対側にもソファがあるのだから、こちら側に三人座る必要はないだろうとか。 いくらゆったりしたサイズとは言え、二人掛けなんだから狭くて仕方ないとか。 何が哀しくて男二人に両の腕を一つずつ拘束されてなければいけないのかとか。 訴えたいことは山ほどあったが、そのどれもが無駄に終わるのがわかりきっている。 むしろ、余計な火種を与えかねない。 完全に膠着状態になってからどのくらい経ったのだろうとディーノが遠い目をしたところで右隣の雲雀が口を開いた。 「ねえ、なんで君までくっついてるの?」 「君がくっついているのだから、僕だって同じことをしても構わないでしょう?」 「構うよ」 「なぜです? 今、僕らの立場はそう変わらないもののはずですよね」 ディーノ越しに睨みつける雲雀に、睨みつけられた骸は嫌味な笑みを浮かべて答える。 返された骸の言葉に雲雀は眉間に深い皺を刻むとふいと視線を逸らした。 その際にディーノの腕を掴んでいた手にぎゅっと力が入る。 「恭弥?」 様子がおかしい。 そう感じたのは骸も同じだったようで、意外そうに片眉をあげる。 「おやおや。珍しくかわいげがある行動をしてるじゃないですか」 それも作戦ですか……という問いかけにはいつも通りの鋭い視線が骸に突き刺さった。 「うるさいよ」 ディーノの右腕を両腕で抱き込むようにして雲雀は体を密着させている。 その状態でディーノの前から覗き込むようにして骸を睨むのだから雲雀の上半身は殆どディーノに預けられた形になる。 「おーい、恭弥〜」 「ほら、跳ね馬が困ってますよ。そんなにくっつくもんじゃありません」 「って、お前もだっ!」 口では雲雀を諭すようなことを言いながら、自分もしっかりと体を密着させてくる骸にディーノは思わず叫んだ。 両側からガッチリ固められている為にまともに身動きがとれなかったのだが、可能な限りの抵抗をして左側の存在を遠ざける。 「なんで、僕だけ離そうとするんですか」 「お前怖いんだよ!!」 同じように腕を抱きしめられ体を密着させられているはずなのに。 右と左で感覚が全然違うのは何事か。 「なんだ、君、嫌われてるんじゃない」 「そんなことはありません」 ディーノが骸だけを遠ざけたのに気分を良くしたのか、雲雀が少しだけ楽しそうな声を出す。 それを骸はきっぱりと否定した。 「怖いと言われる理由はわかっているつもりですよ」 すぅっと目を細めた骸はそのままディーノに顔を寄せる。 「お、おい……」 触れ合うかどうかと言う距離。 その至近距離で骸はディーノの瞳を見つめながら、そっと頬を撫でた。 「クフフ。その怯えた表情も素敵ですね」 「うっ……」 「ちょっと、離れてよっ!」 骸の行動に動きを固まらせてしまったディーノに代わるように雲雀が顔の位置を離させるように腕を振り払う。 それを骸が避けることで空いた距離にディーノは詰めていた息を吐き出した。 「グラッツィェ、恭弥」 正直、本気で怖かった。 骸は何故怖がられているかわかっていると言ったが、ならばこれは完全な確信犯。 性質が悪いことこの上ない。 「ホントさ、骸。オレ、やだから」 骸と雲雀の違い。 それは単純明快に身の危険を感じるか否かだ。 確かに雲雀には一度唇を奪われて居る。 だから、完全に安全なわけではないのだろうが、それでも彼からは脅威を感じなかった。 こうしてぴったりと体をくっつけさせていても骸に感じるようなざわりとした感覚が全く無い。 初めはこちらの好意の差かとも思ったが、子供に甘えて抱きつかれている感じなのだと気がついて、妙に納得した。 雲雀の好意が恋愛感情であることは間違いないのだろう。 けれども、それがひどく幼いものであるのが段々とわかってきた。 それくらいならばかわいいものだし、これからゆっくり諭していけばいいのではないかと感じた。 そうなると目下の問題はこの危険極まりない相手をなんとかすることで。 「そりゃ、誰にだって嫌われるよりは好かれる方が嬉しいけどさ。同性にそーゆー目で見られるのはやっぱり嫌なもんだぜ?」 だから、悪いけれど気持ちには応えられないと言外に込めて伝える。 頼むからわかってくれという願いを込めたそれに骸はクフフと笑った。 「貴方がそういうのはわかってましたよ。当然、男なら同性に組み敷かれる想像をするのは嫌ですものね。貴方ほどの容姿をお持ちなら実際に嫌な経験をしていてもおかしくはない」 骸の指摘につい黙り込む。 その様子に納得したように頷くと骸は先を続けた。 「でも、問題ありません! 僕ならば、貴方の望むようにどんな形でも受け入れることが可能です!」 「……うわぁ」 怪しい商品の押し売りのような態を見せ始めた骸。 本人は名案を提示しているつもりなのだろうが、むしろ引いた。 「なんでそこで引くんですか」 「引くだろ、普通!」 男に押し倒されたくないからといって、男に自分を好きにしていいといわれても嬉しくない。 「僕には魅力がないと?」 「そういう問題でもねぇ」 骸は整った顔立ちをしているし、見ようによっては妙な色気もあるとは思う。 人によっては誘われることもあるかもしれない。 しかし、それ以前の問題なのだ。 「オレがそういう風に思えないんだよ」 ツナ達にも言えるが、好かれること自体は嬉しいともいえるけれど、どうしたってそういった対象には見れない。 「お前たちのこと、嫌いじゃない……ってか、むしろ好きだからこそ、こんなの嫌なんだ」 いくら気持ちを向けられても応えられないものは応えられない。 それが相手を苦しめるのはわかっているし、それが原因で離れていかれたら辛すぎる。 出来うるならば。 仲間とか友人とか。 そんなくくりでずっと仲良くしていたいのに。 「オレも辛いんだ。わかってくれよ」 自分のことを好きだといってくれるなら尚更。 適当な気持ちで断っているわけではないのだと必死に伝えるように見つめると、骸は目を伏せて小さく溜息を吐いた。 「そんな風に言われると弱いですね」 「わかってくれたか!」 「で、それは、彼も……ですよね?」 「え」 ようやく話が通じたかと思ったら矛先が右隣に向く。 そこに居るのは珍しいほどに静かに成り行きを見守っていた雲雀。 未だ腕にしがみ付いたままの彼にも適応される言葉なのかと問われるのに咄嗟に答えることができなかった。 「えっと、それは……」 ここはそうだと言うべき場面なのはわかっている。 けれども、なぜかそれは躊躇われて。 自分に話が向いたことに気がついた雲雀がゆるりと見上げてくるのを確認して、余計に言葉を失った。 ディーノの返事を待つ骸は口を噤んでいるので場には沈黙が落ちる。 「跳ね馬」 しばしの沈黙を破ったのは雲雀だった。 「あなたの望むような形で受け入れるってどういうことなの?」 「え……」 場違いと言うか、今更というか。 雲雀の幼い問いにディーノは固まり、骸はふき出した。 「いや、まあ、予想はしてましたがなんと幼い」 「何で笑うの。ムカつく」 骸の態度に雲雀は不快の色を濃くし、くすくすと笑う相手を睨みつける。 そんな雲雀に何と声をかければいいのかわからなくて。 ディーノは黙り続けるしか出来なくなってしまった。 |