ムカつく相手にムカつく笑われ方をして凄く不快だった。
こうなることはわかっていたのだが、どうしても聞いてみたかったのだ。
それは、自分がわからない部分に関することなのが間違いなかったから。

「ねえ、跳ね馬。教えてよ。あなたが喋らないといつまでもあれが笑ってそうなんだけど」

視線を完全に逸らして黙り込んだディーノの腕をぐいぐいと引っ張りながら答えを要求する。
目を見て話そうと覗き込むと不自然なほどに体まで逸らして避けられるのに少し傷ついた。

「無理強いはよくありませんよ?」
「うるさいよ。君は黙ってて」

どこか楽しそうに言ってくる骸を一睨みする。
本当ならこのうるさい相手を追い払ってから話したかったところだが、ここを逃したら聞けない気がしたのだ。
それに、うるさいはうるさいがこの相手が居る方がはぐらかされないで済みそうなのも確かだと思った。

「聞いたところで、返事は先程僕が言われた通りになるのだから意味無いんじゃないですか?」
「僕にも適応されるとは言われてない」

きっぱりと言い切ると掴んでいた腕がビクリと震えるのがわかる。
ここは押すところだ。
何かがそう告げている。

「跳ね馬。答えてよ」

ディーノはもはや骸の方すら通り過ぎ、ソファの背に顔を向けていた。
右腕が雲雀に拘束されたままなので非常に苦しい体勢だと思うのだが、彼は戻ってこようともしない。

「ねえってば。……僕はあなたになら何言われてもいいし、何されてもいいよ? だから……」
「ゲホッゴホッ!!」

どんな答えだろうと聞くからと言うつもりで言った言葉に、ディーノが大げさなほどに咳き込む。
何故突然そんな反応を見せたのかわからず雲雀がぴたりと動きを止めると、骸がまたふき出した。

「無知とは恐ろしい」

馬鹿にしたような……というよりも、まるで子ども扱いな言い様にこめかみがピクリと反応する。
トンファーを握り締めようと手を動かすと、それより先に骸が動きソファに向かってへばりついているディーノの耳元に顔を近づけた。

「貴方が今動揺しているのは、ああ言っているのが彼だからですか? そうでなければ僕にも諦める理由は無くなるのですが」
「ぐっ……」

囁くような骸の問いかけにディーノが喉を詰まらせる。

「おわかりの通り彼は幼い。彼よりは僕の方が余程貴方に釣り合うことが出来ると思いますよ」
「だからっ……そーゆーのは望んでねぇんだって……」

搾り出すような声。
苦しそうにしながらも骸の問いには応えるディーノに雲雀は口を引き結んだ。

彼らの間では明確にしなくても理解し合えている事柄。
それが理解できないだけでこんなにも置いていかれた気分になる。
幼いと言われても否定することすら出来ない。

こんな劣等感は生まれて初めてで。
酷く雲雀の心を苛んだ。

「どんなことかはわからないけど。それは僕が相手でも望んでないってことだね?」

先ほどの骸の問いを己のものとしてもう一度問いかける。
彼らの言っていることの意味は分からない。
けれど、それがディーノの望むことではないのなら、無理に聞き出すまでもない。

これ以上この話題で嫌な思いをしないためにも、雲雀は強くディーノに詰め寄った。

「ねえ、どうなの?」
「いってぇっ!!」

意地で避けている顔を両頬を掴んで引き戻す。
その際に骸にこっそり手を押さえられていた為に碌な抵抗も出来ず無理矢理振り向かされたディーノは涙目になりながら抗議の声を上げた。
しかし、当然といえば当然のことなのか、たとえ想い人であろうとこの場面で心配するわけがない二人には完全にスルーされてしまう。

「答えてよ」
「そうですね。僕もいい加減はっきりさせたいです」
「……お前らもっと労わりの心をだな……」

そうは言ってみるも完全に諦めた顔をしたディーノに雲雀は更に顔を近づけた。

「ねえ」
「ち、近っ!」

辛うじて焦点が合うかどうかの近距離にディーノの目が大きく見開かれる。
そのまま後ろに下がらなかったのは、真後ろに骸が居たから以外に他ならない。

そうして完全にディーノの動きを奪って詰め寄ると、ようやく腹を決めたように溜息を一つ漏らした。

「わかった。答える。答えるから二人とも離れてくれ」

それが条件だと訴えてくる目に仕方なく体を離す。
同時に向かいで骸が離れたことによって自由を得たディーノはそそくさと立ち上がると反対側のソファへと移動していった。

「そこまで逃げなくても」
「落ち着いて話したいんだよ」

揶揄するような骸の言葉に苦々しい顔をしてからディーノは雲雀の方へと向き直る。
そして、重そうな口を開いた。

「あのな、恭弥」
「なに」

思いのほか真剣な顔をして呼びかけられたのに僅かにドキリとしてしまう。
もちろん、そんなことは顔には出さなかったが。

「なんのことかもわかってねえのに、こんな言い方もなんだけど。正直、お前に対してだけははっきりと否定しきれないってのがホントのとこだ」
「え」

じゃあ……と続けようとした言葉は重なるようにして遮られる。

「でも。だからって、望んでるわけでもねえ。お前のことはかわいいと思うし、他より特別って言ったら特別かもしれない。けど、それでもやっぱり出来れば今まで通りの形で居たい」

師匠と弟子……のようなもの。
普通の括りでは収まらないような関係ではあるものの、自分達には似合いの関係。

そのままで居続けたいというのを強く否定することは出来なかった。

その状態が心地よかったからこそ惹かれたのだから。

このまま押したらそれを失うことになるのかもしれないという現実を突きつけられて身動きが取れなくなる。

「クフフ。思った通りの展開ですね」

一人、骸が楽しそうに笑う。

「君たちは今までが半端に近過ぎた。流れで自然と関係が変わればまた違ったかもしれませんが……今回のような場合、足枷にしかならない」

いつの間に移動したのか、反対側に逃げたディーノの真横に再び陣取っていた彼は妖しげに微笑んで囁いた。

「新しい関係を築いてみませんか? 焦りはしません。僕らはまだまだお互いを知る余地がある」
「……骸」

どこまでも諦めの悪い……そう思ったのは誰の心情か。

その時何を考えていたかはともかくとして。
目の前で繰り広げられた一見甘やかな空気に思考ごと動きを停止させていた雲雀はガタリと音を立てて立ち上がった。

「少なくとも、それは許さないよ!」
「かわいい愛弟子ポジションで満足してさっさと帰ったらどうですか?」
「……咬み殺す!」
「わーっ! だから、やめろ、お前らーっっ!!」

テーブルを飛び越えて踊りかかった雲雀に骸も負けじと応戦する。
戦場と化したリビングでディーノの悲鳴染みた叫びが木霊して。
その後、話をするような状態ではなくなったのは当然の結果だった。





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