「はぁ〜〜〜」

溜息が重い。

どうにかこうにか雲雀と骸を追い出した時にはすでに部屋は悲惨な状態になっていた。
瓦礫の山になっていなかっただけマシかもしれないが。

片付けに追われる部下達の姿を見つめながらディーノはもう一度深々と溜息を吐く。

「オレにどうしろって言うんだよ……」

少なくとも雲雀はあの一瞬納得しかけてくれたような気がした。
けれども、ああして煽る相手が居る限り完全に思考を切り替えることは無理なのではないかと感じてしまう。

「否定しきれないって言っちまったしなぁ」

誤魔化せる状況でもなかったので仕方がなかったとは言え、絶対に望まないとは言い切れなかったのは失態だった。
雲雀が正確な意味を理解して尚押してきたらと思うと頭が痛い。

「……恭弥が理解して誘ってきたら……か」

ついうっかりぼんやりと想像してしまう。

明確な意図を持って触れてくる指先や、潤んだ瞳。
誘うように薄く開かれる唇。

「……あれっ?!」
「どうした? ボス」
「や、なんでもねえ!」

思わず声に出た驚きに部下達が振り返る。
それにひらひらと手を振りながら逃げるように被害を免れた寝室へと移動した。

「……あっれぇ?」

扉を閉めて一息つくと頭を抱えてしゃがみこむ。

先ほど誘う雲雀の姿を想像した時。
明らかに動悸がしたのはきっと気のせいじゃない。

「いやいやいや、待て。ちゃんと考えて違うって判断したばっかだろ」

いくらかわいくても、そんな関係になろうなんて思えない。
そう結論付けたのは昨夜のことだ。

「さっきので動揺してるんだ、きっと」

どうして動揺しているのかなんて考えてはいけない。

雲雀と恋人になるということをリアルに想像してみたりなんて出来ない。
出来ないはず。

浅いところで結論付けて、深く考えてみようとしなかったなんてことはない。

「う……ぐぐ……」

ダメだと思っているのに思考がどつぼに嵌っていくのを止められず、呻き声を上げてしまう。

「だ、大丈夫。大丈夫だ。これは一時の気の迷い……」

だから、何の問題もない。
現にもう一度想像したって何も感じは。

「しない! しないぃっ!!」

瞬時にピンクになりかけた脳内を打ち消すように溢れ出る叫び声。
ボスの篭った部屋からそんなものが聞こえてくれば部下達も気にしないわけがなく。

「ボス! なにがあった?」
「やっぱ、様子おかしいぞ!」
「何もねぇ! 何もねぇから気にすんなぁ!」

脳内も現実も落ち着かない状態に陥ったディーノは全てを吹っ切るが如く大声で叫ぶとベッドにダイブし、思考を止める為に夢の世界への逃避を図った。










「って、言っても寝れるわけねぇよな……」

翌日、完全な寝不足に加え、一晩中悩み抜いたことによる頭痛を抱えながらもディーノは並中へと足を向けていた。
ロマーリオの運転する車の中で揺れる頭を庇うように額を押さえると運転席から声をかけられる。

「ボス……大丈夫か?」
「……あー、大丈夫……とは言えねぇかな」

ここまでくるとどうしたって隠しようがない。
長年傍で使えてくれている腹心ともなれば尚更だ。

心配そうに様子を伺ってくるロマーリオに苦笑を返す。

「だから、さっさとケリつけちまおうかと思ってさ」

結局逃げているだけでは何も変わらないのだと一晩かけて思い知った。
いつまでも己のへなちょこさを許しているわけにも行かない。

「なぁ、ロマ」
「なんだ、ボス?」
「……もし、オレがお前らが望まねぇ道選んだらごめんな」

そもそも謝ってすむような問題ではないのだが、そう言わずには居られなかった。

「なんのことを言いたいかはわかるつもりだが……少なくともオレはあんたが望んで選んだ道なら何の文句も言うつもりはないぜ」
「ロマ……」
「あんたがオレらのことを考えてねぇなんて思ってもいねぇ。その上で出した結論ならオレはあんたの望むようにしてやりてぇよ」

あんたは我慢しすぎなんだと笑った腹心に思わず涙が出そうになる。

「グラッツィェ」
「そういうな。今回に関しちゃオレもつい口出しちまったしな」

それで余計なブレーキをかけた部分もあっただろうと言われたのには首を横に振った。

「んなこたねぇよ。お前がああ言ってくれたからこそ、今、自分が流されてるわけじゃねぇって確信できるわけだし」

勢いに押されて流されるわけには行かなかった。
抵抗もするだけした。

その上で出た結論ならば、元より己の中で変えようのなかったものだったということだ。

「まあ、まだ決定じゃねえけどよ」

あとはもう一度会って決める。
今度は逃げずに真正面から向き合うつもりだ。

「そこさえキッチリ話しつけられれば、後はどうにでもなるしな」

昨日の轍は踏まない。
確かに骸は色んな意味で手ごわい相手だが、彼を退け切れなかったのも己の弱さが原因だったのだ。
こんな状態ではむしろ想いを向けてくれている相手全てに申し訳立たない。

「さて、じゃあ、行こうか」

目前へと迫った並中校舎を挑むように見つめる。
授業中の時間である今なら向かうは応接室か屋上か。
こんな日に限って授業を受けていたりしないことを祈りたい。

早く顔が見たいのはどんな心境に寄るものなのか。
その答えを見つける為にも決意新たに足を踏み出した。






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