「……恭弥?」

どうにも様子がおかしい気がして問いかける。
すると、震えた睫はそのままに目蓋がゆるりと上がり奥から潤んだ瞳が現れた。

「本当にあなたはそれでいいの?」

ディーノは雲雀とこうなったことに後悔はないといっていた。
薬さえ抜けきればもういいと言った雲雀を遮ったということは、これからも関係を続けていいということだろう。

だったら、何を我慢する必要があるのだろうか。

「僕は……構わないんだよ? あなたとならしてもいい」

それは決してディーノにしか反応できないからというわけではなく。
純粋にその存在を受け入れることに対して問題を感じはしないという意味。

「……やっぱり、触れるのとするのじゃ違うの?」

雲雀だから抱きたくないのか、もっと根本的に男と体を重ねる気が無いのか。

「恭弥……」

重ねられていく問いにディーノは息が出来ないほどの胸の苦しさを感じた。
咄嗟にかける言葉が見つからなくて名前を呼ぶと雲雀は答えを待つように口を噤む。
一旦雲雀に触れる手を離したディーノはその手をそっと白い背に回した。

「何度も言うけど、嫌なわけじゃない。抱きたくないわけでもない」

雲雀が抱いて欲しいというのなら抱くと言ったのに、首を横に振られる。

「そうじゃない。僕が知りたいのは……あなたが我慢する理由」

本能として求めるつもりがあるのにそうしないのは精神的な問題があるということ。
どうしてもそれが気になるのだと告げてくる瞳をディーノは見つめ返すことが出来なかった。

「それは……」

なぜ、雲雀はここまで拘ってくるのだろう。
そんな疑問がふと過ぎる。

もしかしたらなんて考えてはいけない期待まで生まれてきてしまった。

それこそがリボーンの言っていた「万が一」なのではないかと。

「なあ、恭弥。答える前に一つだけ聞きたい」
「なに?」

やっと答える気になったのならば、どんな問いにも応えようと言った色を見せる雲雀にディーノは気持ちを落ち着けるように一息吐いた。

そうして。
ずっと気になっていた……そして、気にしないようにしていた疑問を投げかける。

「お前、あの日、現れたのがオレじゃなかったら……どうしてた?」

あの一度目の治療の日。

雲雀は初めこそ拒否の反応を見せたが、すぐに自分を受け入れてくれた。
それは生きるために誰にでもしたことだったのか。

「……最初から決めてたよ」

遠い目をして雲雀は答える。

「あなた以外が来たら死ぬって」
「っ!!」

衝撃の告白にディーノは思わず体を離して雲雀の顔を覗き込む。
そこにあったのは妖艶さすら感じる笑顔。

「本当はね。可能ならあなただっていらなかった。……けど、どうしようもないっていうなら……あなた以外は嫌だった」
「恭弥……お前……」

いつからそんな感情を自分に向けてくれていたのか。
全く気がつかなかったという純粋な驚きが顔に表れていたのか、雲雀はまた薄く笑った。

「……綺麗だったんだ、あなたが」
「え?」
「あの時……見たことも無いような表情で僕の目の前に居た男を葬ったあなたが……ね」」

オレンジ色の炎を燃え盛らせたディーノは雲雀ですら背筋が寒くなるような目をしていた。
ただ感情に任せる怒りではなく、冷静に心の底から相手を地獄に落とそうと考えているような瞳。
そして、それを携える整った顔立ちと相まってまるで人ではない何かのようにすら感じた。

「あなたが返り血で濡れるのなんて初めて見た。……凄く、ゾクゾクした」

それこそ自分の体の状態など気にならなくなるほどに。

「それを思い出したらね、あなたならいいかなって思ったんだ」

決して助けてくれた相手だからとかそんなことではない。
あの姿に魅了されてしまったからこそ。

「だから、本当はあなたになら何をされてもよかったんだ」

ディーノが葬ったあの男と同じことをされたとしても。
間違いなく同じものだとは感じない。

「優しくする必要なんてないんだ。……僕のことを考えてくれる必要もないんだよ」

なのに、そんなことばかりするから。

「変な気持ちになる」
「変って……」

予想もしていなかった言葉の数々にもはや呆然とするしかなかったディーノは最後の核心に触れてしまった。

「あなたに大事にされている気がするのが心地いい。けど、特別僕を欲しいわけじゃないんだろうなって思うとちょっと嫌な感じがする。なんだか胸がもやもやして気持ち悪いんだ」

これってなんだろうね……と問いかけてくるのをディーノは信じられない気持ちで抱きしめる。

「恭弥……オレ……」

事実上の告白を受けて黙っていられるわけが無かった。

「オレ、本当はお前のことすっげー欲しくて仕方ないんだ。好きで……好きでたまらない」

リボーンの言った通りだ。
いくら己の頭の中で考えていたっていざ起こる何かに対応しきれるものじゃない。
想いが通じ合ってしまうなんて今の段階では何よりもあってはならなかったことなのに、自分を抑えきれなかった。

「だからこそ、自分から抱くなんてできなかった。そうしちまったらもう止められる自信がないから」
「止める必要があるの? 言ったよね。僕は何をされても構わないって」

だったら必要なときだけ好きなようにすればいいというのを否定する。

「違う。そうじゃない。お前の全部が欲しくなる。お前じゃなければダメになる。……そんなこと言っちゃダメだってわかってても止められなくなるんだ」

雲雀が欲しい。
雲雀だけが欲しい。

それは至ってはならない境地。

「じゃあ、しなきゃ……止められるの?」

小さく首をかしげた雲雀。
その姿がぼやけて自分が泣いていることに気がついた。

「……もう、無理……」

堰を切ってしまったこの想いは止められない。
あんなに苦しんで我慢したのに。
想いを秘めたまま生きていく覚悟だってしてきた筈なのに。

「恭弥。お前が欲しいよ」
「うん」
「お前じゃなきゃ……ダメなんだ」
「あなたの方が治療された側みたいなこと言わないでよ」

ポタポタと涙を落とすディーノの頬を撫でて雲雀は少し可笑しそうに笑む。

「僕もあなたじゃなきゃ駄目だよ。……薬なんかのせいじゃなく、ね」

そんな風に言われてしまっては己を諌める術なんてもうどこにもなくなってしまう。

「抱いてもいいか?」
「愚問だね」

どちらからともなく唇を寄せ合う。
先程の名残もあってか雲雀の唇は驚くほど熱かった。





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